飛龍舞う空に恋の音
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感情の渦。
策を進める度に彼女の苛立ちは増していた。
この戦いはきっと、彼女の主が知れば悲しむであろう戦。
人の命を数と駒として、村と街を落とすべきただの拠点と見て、孫呉の命を取りに行った。
それでいて、ねね達劉表軍の本当の策は勝つ事ではないのだから厭らしい。
「陳宮様……孫家の軍とほんの数日前にぶつかった所でしょう? 少しお休みになられた方が……」
「……気遣いはありがたく受け取りますぞ。ですが、ねねはまだまだ行けるのです。たかだか数日前の戦闘の後で、民が暮らすだけの村を壊したくらいで疲れる程、ねねの身体も心も柔じゃないのです」
心配して声を掛けた千人長に目礼を一つして、それでも彼女は休むことをしない。
走り続けないとダメなのだ。気持ちが途切れたらダメなのだ。狂気を途絶えさせてはダメなのだ。彼女はそれをよく分かっていた。
今回彼女が用いている策略は、乱世を治める王が使う事の出来ない最悪の下策であるが故に。
「しかし……周辺の村を焼き尽くすことを一つ遅らせるだけで――――」
「甘いのですよ。孫呉は土地に絆を求めて治めてきた家柄。此処で手を緩めることは下の下。
襲われた村は救いを求め、燃やされた街は復興の為の力を求める。お優しい偽善者達は民の声に応えるしかなく、他の奴等への対応さえ送らせていくのです。だから燃やすのです。だから殺すのです。だから……全ての村と街を燃やして、尚且つ絶望した人間をそこそこだけ生かしてやるのです。
人々の希望は鎖となり為政者を縛り上げる。孫呉は襲撃された村や街を救わずに居られない。軍としてカタチを為している以上、揚州の全てに広く分散された百人単位の“ケダモノの集まり”数十には対応しきれない。そして千人単位の本物の軍数個の対応に時間を掛けさせ、大陸で最強の飛将軍と……ねね達の“飛龍隊”が神出鬼没の動きで以って確固撃破……その為には、一つの村さえ残してはならないのですぞ」
その策の全容を始めて知らされた千人長は生唾を呑み込む。
ただ行く先々、目の前で繰り広げられているだけだと思っていた。そういえばやけに敵の増援が少ないと訝しんでも居た。まさか……黄巾の乱よりも計画的な賊徒の襲撃策などという、そんな人の道を外れた戦いをしているとは露とも思わなかった。
百人単位で村を襲撃しているモノ達と、千人単位で街を燃やしに向かっているモノ達は……いわば生贄であり、餌。
敵を釣る為の集団のどれが死んでも別に構わないという、軍師ならば普段出し得ない策であった。
いくら孫呉の情報網と言えど、揚州の全ての村や街への襲撃に対応できるほど手広くは配置出来ない。
大軍となって押し寄せられるよりも、治める地に住まう民を、それも広大な範囲で傷つけられることの方が為政者としては痛いの
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