序章 Twin Bell
1.鐘を鳴らす男、来たる
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しか見えないものが未来を予言しているなど、ヘスティアには信じられなかった。
「無論今すぐ信じてほしいとは言わないさ。俺自身、まだ少し戸惑っている。でもね……この日記には、恐らく俺と関わりがあると思われる数人の人物の名前が散見される。……ベル・クラネル……アニエス・オブリーシュ……ティズ・オーリア……そして愛しの――っと、それはともかく。女神ヘスティア、貴方の御名前もこれに載っていた。人当たりがよく慈悲深い、尊敬に値する神だとね」
「そ、そうか。そこまで褒められるとなんだか照れくさくてしょうがないなぁ」
気恥ずかしさにもじもじしつつ、ヘスティアは目の前の青年が嘘をついていないことを確かに感じた。彼は彼なりに、到って真面目に分析した結果、ヘスティアを頼ってここまで来たのだ。
神の中には横暴だったりプライドの高い者も多くいる。そんな神に頼るくらいなら、とここへ来るのは自然なことに思えた。
ぱらぱらとページをめくっていた青年は、ぱたんと日記帳を閉じる。
「つまり過去か未来か、俺は貴方やその周辺に現れるであろう人物に関わりがあるか、これから関わるものと予測した。そしてその中でも最もよく出てきた名前が……『ヘスティア・ファミリア』だった。納得していただけただろうか、女神ヘスティアよ?」
つまり青年には今、行き場所がない。そして記憶も同時に無くしてしまった。
そのため、現状で最も自分の記憶に関わりが深いと予測され、更には信頼も置けそうなここへ来た。
話を反芻し、吟味したヘスティアは、大きく頷いた。
「………ああ、よく分かった。ボクは君の事は知らないが、そういう事情ならむしろよそのファミリアに所属させることの方が不安だね」
「お心遣い感謝する!やはり貴方は俺の見立て通り……いや、それ以上に素晴らしい女神だ!」
はしゃぐ青年の姿を微笑ましく想いつつ、ヘスティアは思案する。
今、彼には他に頼れる存在がいない。神としても個人的にも、そんな困った人を放っておく気にはなれなかった。信頼関係はこれから築けばいいし、彼自身も積極的だ。むしろ積極的すぎてちょっと戸惑うくらいだが……とにかく、ヘスティアは決めた。彼には今、味方が必要だ。ヘスティアという心強い味方が。
彼を、初のヘスティア・ファミリアの一員として迎え入れよう。
「おっと、そういえばまだキミの名前を聞いていなかったね?教えてくれるかな、ボクの初めてのファミリアとなるキミの名前を!」
「ああ、もちろん!とはいっても記憶がないので仇名のようなものなんだが――
――リングアベル!と、呼ばれている」
その青年、リングアベルはニヒルに微笑んだ。
この日、万年日蔭組だったヘスティア・ファミリアに一人の色男が加わった。
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