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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか
序章 Twin Bell
1.鐘を鳴らす男、来たる
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ごしてきた記憶の中でもなかなかない。

 彼はこのヘスティア・ファミリアの一員になることを強く望んでいるようだ。ここへ来たという事は、冒険者になるつもりで来たもののまだファミリアには属していないのだろう。つまり、ファミリアに加えるなら今だ。その上、こちらの事を「麗しい」「可憐な」神としてしっかりとした敬意を払いつつ、自分から売り込んできたのだ。

 その勢いと、自分を神としてではなくヘスティアとして褒めてくれる彼の態度に、ヘスティアはこの青年が急激に愛おしく思えてきた。もとより誰もファミリアになってくれずに困っていた身。断る理由がある筈もない。
 愛の告白のように熱烈なアプローチに、ヘスティアは盛大にテレながらも頷いた。

「も……モチロン歓迎するに決まってるじゃないか!………で、でも本当に私のファミリアでいいのかい?ネームバリューなら他のファミリアだってあったろうに……」

 喜びつつも、ヘスティアはその辺りが心配になった。確かに嬉しい物は嬉しいが、結果としてファミリアの現状を目の当たりにして彼が失望する可能性はある。暫く極貧生活を強いる事にもなるだろう。そのせいで辛い思いをさせてしまうとヘスティアとしても心苦しい。

「他のファミリアもしっかり調べて決めたかい?言ってはアレだけど、うちのファミリアは貧乏だよ?どうしてうちがいいのか、好ければ聞かせてくれないかな?」
「うむ………これから世話になる主神なのだから、隠しごとはよくないか。――よし、少し長くなるが、俺の身の上話を聞いてくれないか?」

 青年は手に持っていた「D」の文字の装飾がある手帳をテーブルに広げ、語り始めた。

「実は、俺には過去の記憶がないんだ。気が付いたらこの町の近くで倒れていたらしい。名前も家族も思い出せない。年齢は多分18歳くらいだと思うが……」
「え、えええええええ!?記憶がないって……大事じゃないか!?こんな所を出歩いてていいのかい!?」
「いや、記憶がないからこそ出歩いていたのさ。何か思い出せるものがないかと思ってな」

 結局駄目だったが、と気楽そうに笑う青年に、ヘスティアは彼の事が心配にもなってきた。
 自分の記憶がなくなって平気でいられるわけがない。なのに青年は笑って見せる。
 本心で笑っているようにも見えるが、ヘスティアは神としての勘で、彼の瞳の奥底に何か蓋のようなものがある気がした。

「手がかりは少ない。いま手に持っている剣は倒れた時に握っていたらしいが……このとおりさ」

青年が黒塗りの剣を鞘から抜くと、そこには途中からぽっきり折れた血のように赤い刀身が姿を現した。新品という風ではなく、むしろよく手入れされた歴戦の剣といった印象を受ける。

「かなり上質な金属を使っているらしい。これだけ上等なのにどうして折
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