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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百六十七話 傀儡師
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長ければ一年に及ぶと思います」
「一年」
思わず声が出た。夫が“済まない”と謝ったので慌てて“いえ、私こそ済みません”と謝った。夫は宇宙艦隊司令長官なのだから出兵が有るのは当たり前の事だ、それが長期になる事も……。今更何を驚いているのか。夫の足手纏いになってはいけない、それにしても一年……。溜息が出そうになって慌てて堪えた。

「決戦だな」
「はい、今回の遠征で反乱軍と決着を付けようと思います」
夫の言葉に養父が頷いた。
「軍務尚書、統帥本部総長から話は聞いている。ユスティーナの事は心配はいらん、私が居るからな、存分に働くと良い」
「有難うございます、義父上」
夫が頭を下げた。

決戦、反乱軍との決戦。大丈夫なのだろうか? 反乱軍にはイゼルローン要塞が有る。あの要塞を簡単に攻略出来るのだろうか? 要塞には反乱軍の名将、ヤン・ウェンリー提督が居る。損害が大きければ遠征は失敗に終わるのでは……。夫も養父もその事には何も言わない。私だけが不安に思っている様だ。そんな疑問に夫が答えてくれたのは夜、床に就いてからだった。

「心配は要らない。帝国軍と反乱軍の戦力比は圧倒的に帝国が優位だ。勝てるだけの準備もしている。百の内九十九まで勝てる、心配はいらない」
「……」
百の内九十九? 残りの一は? 私は不安そうな顔をしていたのかもしれない。夫は軽く微笑むと私を軽く抱き寄せた。

「大丈夫だよ、ユスティーナ。私は反乱軍を過小評価しているつもりは無い。連中は有能で危険だ。だがそれでも私は勝てるだろう」
「……信じても宜しいの?」
「ああ、もちろんだ」
信じて良いのだろう。養父は夫の事を出世欲や野心とは無縁の男だと言っていた。夫の手が私の背中を優しく撫でている。心配する事は無いのだと言っている様だ。温かい手、この手を失いたくない……。

「この戦いが終れば宇宙から戦争が無くなる、平和が来る。そうなったらもっと君と一緒に居る時間が取れると思う」
「そうなれば嬉しいですけど無理はしないでくださいね」
「分かっている。私は無理は嫌いだからね、心配しないで良い」

夫が優しい笑みを浮かべながら頷いた。本当にそうなら良いのだけれど……。出世のためには無茶はしないかもしれない、でも戦争を無くすために無茶はするかもしれない。戦争を無くすための戦争、何て皮肉なのか……。心配している顔を見せたくないと思った。甘える振りをして夫の胸に顔を埋めると夫が優しく抱きしめてきた……。





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