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赤い男
6部分:第六章
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第六章

「そんなことはだ」
「しかし我々はです」
「確かに見ました」 
 彼等もこのことは主張する。
「その赤い服の男をです」
「この目で」
「疑いはしない」
 フルシチョフもそれはしなかった。
「全員が嘘を言う筈もない」
「はい、そうです」
「それは決してありません」
「では。誰だ」
 フルシチョフはさらに言うのだった。
「その男は」
「わかりません」
「何だったのでしょうか」
「ただ。こうした話があったな」
 フルシチョフはふと思い出した顔になってだ。こう彼等に話してきた。
「フランスの話だがな」
「フランスですか」
「あの国のですか」
「そうだ。嘘だとは思うが」
 こう前置きしてだ。そのうえでの話だった。
「サン=ジェルマン伯といってな」
「サン=ジェルマン?」
「といいますと?」
「ルイ十五世の頃にいたという」
 十八世紀の王だ。絶世の美男子であると共にかなりの色好みでも知られていた。その愛人の一人ポンバドゥール夫人が政治において辣腕を振るったことも知られている。
「何でも知っていてしかも異様に器用な人物だったという」
「そうした人物がですか」
「いたのですか」
「何も食べず。ある丸薬を飲み」
 そのうえでだというのだ。
「不老不死だったというな」
「不老不死。その様な非科学的な」
「完全な与太話ではありませんか」
 皆それを聞いて眉を顰めさせる。ソ連は科学的共産主義の国家である。そこでは一切の信仰や現実的でないとされるものは否定されていた。その共産主義を強く信じる彼等ならば当然のことであった。
 しかしだ。フルシチョフはここでさらにこう言うのであった。
「だが。その男はだ」
「はい」
「どういった者だったのですか」
「常に赤い服を着ていた」
 言うのはこのことだった。
「そして小柄で茶色がかった金髪で」
「そして目はですか」
「緑だったと」
「そうだったというのですね」
「そうだ。全く同じだ」
 そのスターリンのところに来たという赤い服の男とである。
「まさかとは思うがな」
「確かに全く同じ姿形ですが」
「不老不死の男なぞ」
「その通りだ。だからだ」
 フルシチョフの言葉が強くなった。そうしてであった。
 彼はだ。咎める様な顔でだ。彼等に告げた。
「このことはだ」
「はい、一切ですね」
「言わないと」
「忘れることだ。私もそうする」
 彼自身もだというのであった。
「忘れなければ。わかるな」
「ええ、よく」
「それでは」
 ソ連にはシベリアがある、そういうことだった。
 こうした話もあった。そして今もだ。
 とある国民のかなりの数が餓えている独裁国家の首都にだ。彼がいた。
 彼は道を進む一人の兵士にだ。こう尋
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