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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第十七話
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魔導書《グリモア》を読んでも発動しなかったというのは予想外の展開だった。

 いつも開店に向けて準備しつつシルたちの様子を窺っていた。単純にシルが同業者以外の個人に積極的に関わりを持とうとしている姿が珍しいと共に感心していたからなのだが、同時にレイナの不自然さを汲み取っていたからだ。

 率直に言って、レイナが歩く姿を見たときは背筋が凍ったかと思った。忌まわしき二つ名だが、かつて《疾風》と謳われたほどの実力者であるリューはLv.4の冒険者でもある。戦線から退いたとはいえ、その腕が衰えないように日々最低限の鍛錬をしている。

 だからこそ言える。レイナの体運びの異常さが。一目見ただけで途方も無い時間を想起させるような、どこまでも清澄に研磨されたそれは、決して13歳の少女が出来る芸当ではない。とんでもない鬼才の持ち主であっても、こればかりは無理だ。きちんと理に適った体の鍛え方をしなければ、体の構造的に再現不可能だ。もし13歳であの体運びが出来るのなら、それは生まれたその瞬間から体を鍛えて尚且つ最上級の指導者の下で励まなければ絶対無理だ。もちろんそんなことは現実的に考えてありえない。よって、13歳であると言うレイナの体運びはありえないのだ。
 しかし、現にありえてしまっている。多少の年齢詐称があると見込んでも15歳を上回ってるのは考えにくい。その逆はなおのこと不可能。小人族(パルゥム)でないことは確認済みだ。

 あの体運びを実践で用いられると思うと、ぞっとするものがある。それも、レイナにとって日常生活の一部に溶け込んでしまっている事実が助長する。
 それからというものの来店する度ずっと配慮していたところ、ついに狐の尻尾を見つけたのだ。それこそが魔導書(グリモア)の一件だったのだ。

 リューを含め、《豊饒の女主人》に務める従業員たちにはそれぞれ訳ありの過去がある。リュー本人もろくでもない過去を歩んでしまっているため、およそ他の従業員も順ずる過去を経験していると見越している。
 そんなリューたちを従業員という形で匿い、世話をしてくれているミアには本当に感謝している。人生のやり直しの場を提供してくれたこと、掛け替えの無い仲間と合わせてくれたこと、生き甲斐を見つけさせてくれたこと。

 今この《豊饒の女主人》は、従業員にとって心の拠り所だ。ただ一つでも欠けてはいけない、大切な一枚の絵となっている。恒久的に続いてほしいと、心から願っている。
 そこにレイナという不審人物が現れれば、リューは警戒せざるを得ない。いったいどうして素性を偽ってシルに接触するのか、どうしてこの店に毎日足を運んでくるのか。従業員のいずれの過去に携わった人物か、自分を狙う刺客か。疑心が晴れることは無い。

 だが、今のところレイナから悪意の欠片も感じ取れない。
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