第十七話
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前世で私が編んだ参考書に迫るくらいだ。真っ白に塗装された表紙にはでたらめな幾何学模様が刻まれていた。私はそれを、少なくない回数見たことあるものだった。
「あれは……」
うわ言のように漏れた私の声に、我に帰ったシルがはっとしつつ私の目線を追うと、不思議そうに首を傾げた。
「落し物みたいなんです」
「落し物、ですか」
「今日の開店前にそこのカウンターに置いてあったんですよ。昨日店を閉めるときは見なかったはずなんですけど……」
後半はぼやくように流したシルだが、それは明らかに不自然だ。忘れ物? そんなわけが無い。あんな貴重品を携帯するバカがいてたまるものか。まあ、そんな貴重品を台無しにしたバカはここにいるんですけどね。
念のため見間違いないか確かめるため手にとって見たけど、やっぱり間違いない。この夥しい魔力を纏う魔法文様は魔導書の証だ。
魔導書。それは言うなれば読者に強制的に魔法を発現させる魔法である。神の恩恵を授かった冒険者たち全員が魔法を習得できる訳ではない。あくまで0%に数%加算されるだけ。つまり魔法が発現する可能性が得られるだけだ。そんな中で魔導書という奇跡のようなアイテムが出れば、誰もが我先にと奪い合う。加え、世界で最も魔法の研究が発達している魔法大国に所属する最高級の魔術師が何年も掛けて丹念に魔力を流し込みようやく完成する魔導書の絶対数は決して多くない。だから、前世でも魔導書は絶滅危惧種なみの希少価値を誇っていて、一冊だけでもオラリオの一等地を丸々買えてしまえるほどの値が付く。
そんな魔導書を落し物なんてするはずがない。何らかの競売で競り勝った帰りだったとしても、なおさら肌身離さず持って帰るはず。酒場に寄っていこうなんて考える余裕すらないだろう。なのになぜこんな代物が……。
知らず知らずのうちに私の顔が険しくなっていたのか、シルが少し不安そうに本と私を交互に見やる中、私は躊躇無く魔導書を開いた。
しかし、そこは真っ白な紙が続くだけだった。
何秒か同じページを凝視しても何の変化もなく、ただ古ぼけたインクの臭いが鼻腔をつくだけだった。
やっぱり不発だったね。魔導書は魔法を発現させるだけでなく、低確率でスロット数を拡張させる機能が備わっている。上限である三つの魔法スロットを越えることは出来ないけど、スロットが一つの者は二つ、二つの者は三つと、素質として個々人が定められた使用魔法の数を増やすことが可能なのだ。
少し詳しく説
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