第十七話
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いつも通りの快活さで挨拶してきたんだけど、私の隣にベルがいたのを見た瞬間にビキリと顔を硬直させて、首を傾げるベルを差し置いて固まった笑みのまま私を店端まで連れて行くと、これ以上ないくらいの真顔で「ベル君とどういう関係ですか」と迫られたよ。一文で述べたけど、実際息を付かせぬ勢いだったから、我ながら年甲斐も無くうろたえながら答えたものだ。
結局その後私はベルとシルのパイプのような感じだ。シルからベルに聞きたいことを伝言として受け取って、私は自分が気になっていることのようにベルに聞く。聞いたことをシルに伝える。こんな感じだ。
ほんと冒険者になって何でこんなことしてるんだろうってここ最近本気で悩んだことだよ。甘酸っぱい青春なんてクソ食らえ! と言わんばかりの少年期を過ごした私にとって、恋心とか乙女心とか理解の範疇を超えている。あれはダンジョンに匹敵するレベルの謎だね。
ベルのことが好きなら本人に好きって言えば良いのに、どうしてか今みたいに猛烈に恥ずかしがっていやいやと駄々を捏ねる。ならそれとなく除々に近づいていけば良いんじゃないかって言えば、今のように素を出すのは無理! って言い張るし……。いやホントにどうしろっていうんだ。
まあ、素を出すのに抵抗があるというのは解らないでもない。彼女は《豊饒の女主人》の看板娘として名が知られている分、仕事には真摯に取り組まなくてはならない。だから、仕事中に見知らぬ男性が話し掛けてきても気前良く答えないといけないし、自分の嫌いなタイプの男性でも然り、ほとんどの男性の前では従業員としての仮面を被りっぱなしだ。
そんな日々を送っているシルに突如ありのままの自分を曝け出せ、なんて迫っても抵抗を覚えるだろう。というより、自分の素というのを見失ってしまっていると思う。まあ、私と会話している今のシルの姿が彼女の素なんだけど。さっきのゴッテゴテに飾られた笑みより、本心から恥ずかしがりながらも笑みを浮かべているほうがよっぽど魅力的だ。
まっすぐなベルも気持ちを奥に隠した笑みより、純真な笑みを好むに決まっている。
ま、それを言ってもさっきのようになってしまうから、もやはイタチゴッコをしているようなものだ。いつまで私はこの惚気話じみた会話に付き合わなくちゃいけないんだろ……。それを聞いてると私の少年期がいかに残念なものだったか思い知らされるから悲しくなってくるんだよねぇ。あれはあれで充実した日々だったから文句は無いけどさ。シルのように一端の恋をしてみたかった、という思いはある。
困ったなぁとぼやきながら店内を何気なく見回した時、私はようやくその異物に気が付いた。
店の中で比較的目の付くところに、ぽつんと何気なく一冊の本が立て掛けられていた。少し遠くから見ても解るくらい厚い本で、
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