第十七話
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がその弁当を商品化しようと思いついたという。ドワーフの女主人も特に咎めることもなく、数日様子見を兼ねて弁当屋を開いたところ予想を遥かに上回る反響を得て、現在に至るらしい。
もともと酒屋として利益を大きく上げていた《豊饒の女主人》は朝の顔を作ることで更に利益を上げられているのだ。尤も、弁当屋を開かなくともこのメインストリート随一の黒字を叩き出しているため主人に継続する熱意は無く、店員の熱意のみで続いているものだが。
因みに、大ヒットを得た秘策の一つとして、弁当を包むものに二通り用意されている。一つは私が貰ったような紙包み、もう一つはバスケットに入れるというのものだ。前者はダンジョンの中にも携帯できるように嵩張らない配慮がされているが、後者はその限りではない。後者の狙いは客の足を半ば強制的に店へ運ばせることだからだ。
《豊饒の女主人》の人気層は年齢問わずそのほとんどが男性だ。言及するまでもなく、美少女だけで従業員が構成されているため、目の保養のために足を運んでいるからだ。もちろんご飯に胃袋を掴まれた連中もほとんどだ。
バスケットは貸し出しという条件で渡されているため、それを返却しなくてはならない。そんな《豊饒の女主人》に夜だけでなく朝にも足を運ぶ口実が出来るなら、男性は諸手を挙げて駆けつけることだろう。殺伐とした環境に身を置く冒険者は常人より強く色欲に溺れている。それを上品かつ狡猾に活用した営業哲学である。
強かな美少女従業員たちに一種の尊敬の念を寄せつつ店を後にしようとしたとき、シルが可愛らしく両手をぱんと合わせとびっきりの笑顔に言葉を添えた。
「また来て下さいねっ!」
「……45点です」
「思いのほか辛口!?」
よよよ、と芝居がかった泣きまねをするシルに、私はしらっとした目を送りつける。敏感にその目線を悟ったシルは拗ねたように唇を尖らせた。
「今度はどこがいけなかったんですか?」
「前も言いましたけど、ベル君はシルさんの素の方が喜ぶと思いますよ」
「す、素なんて出せませんよっ! そんな恥ずかしいこと……っ、ぅぁ……」
みるみるうちに顔を完熟させたシルから湯気を幻視できそうだ。真っ赤に染まった両頬に手を添えていやいやと首を振りながらも、デレデレにはにかんだ笑みを浮かべるシルにふぅと大げさに鼻でため息を付き、私は眉間にそっと指を添える。
先ほど言ったお腹を空かせた駆け出し冒険者というのは、アルミラージよろしくベルだ。ご覧の通り、シルはベル君にご執心なのである。大方ここまでの会話で察してもらえると思うけど、私はシルの恋相談役に仕立て上げられている。
この前は凄かったよ。たまたま早朝からダンジョンに向かうベル君と出くわして、一緒に弁当を買いに行くことになって店に入ったところ、シルが
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