第十七話
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ナチュルに素性を明かしてから数日が経った。私が感じていた嫌な予感は珍しく的中しなかったらしく、大きな騒動もなく、早朝のメインストリートは昼間ほどではないけども大いに賑わっている。
オラリオに戻ってきてすぐに取った宿とダンジョンを行き来する毎日を送っている私だけど、そんな殺伐とした習慣の中に心和むものが一つある。
「いらっしゃいませー!」
カランコロンとベルを鳴らして木戸を開くと、中から張りのある明朗な声が飛び出した。声の主は丁度店内のテーブルを拭き終わったところらしく、手に雑巾を持っており少しだけ汗を掻いていた。
比較的涼しい早朝から汗を掻いている少女は私の姿を認めると接客スマイルから一転して、飾り気のない純真な笑顔を浮かべてとててっと小走りに駆け寄ってきた。
「おはようございますレイナちゃん!」
「おはようございます、シルさん」
服装は白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートに、その上から長めのサロンエプロン。光沢に乏しい薄鈍色の紙を後頭部でお団子にまとめ、そこからぴょんと一本の尻尾がたれている。ポニーテールではない。髪と同色の瞳は純真そうでかわいらしく、ミルクのように白く滑らかな柔肌の顔は百人に聞いて百人が美少女と答えるものだ。
彼女以外にも店内には同じ服装を纏った獣人とエルフがせわしなく働いており、どれも店内の掃除に当たっていた。
今私がいるのは以前ロキ様と晩食を頂いた《豊饒の女主人》である。ドワーフの女性が店主として務めるこの飲食店は生粋の酒場、つまり夜に開店するはずの店である。ではなぜ回転時間の真逆である早朝から店が開いているかというと、それこそが私の一日の楽しみの一つでもある。
「いつもので大丈夫ですか?」
「はい、お願いします」
懐から手慣れた重量の貨幣を取り出してシルに手渡すと、にぱっと笑い「毎度あり♪」と弾んだ声と共にレジに回り込む。てってと手を探り二枚の銅貨を渡したシルはレジの下、ショーウィンドウの中に並んでいる幾つもの弁当の中から薄緑の包み紙が施された物を一つ取り出し、私に手渡した。
これが《豊饒の女主人》の朝の顔である。つまるところお弁当屋さんだ。先述の通り生粋の酒場である《豊饒の女主人》がなぜお弁当屋を始めたかというと、それは目の前の少女シルにある。
私は聞いた話でしか知らないけど、なんでも某日にシルがお腹を空かせた駆け出しの冒険者を見かねて、その日の賄い飯を譲ったのだそうだ。見返しにその日の夜に必ず来店するよう迫ったもとい約束したらしいけど、どうもその賄い飯がとても好評だったらしく、約束通り来店した冒険者が嬉々として誉めてくれたそうな。
それからシルが個人的にその冒険者にお弁当を作って渡す日が続いていたところ、それを見ていた他の店員
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