貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
{作品は、フィクションに付き、内容は架空で、事実とは、異なる処があります}
北風が雨戸に、コトコト・コツコツ・コトコトと、二人を呼び起こすかの様に、叩いていた。それは、震え泣きするほどの、寒い夜であった。
五十歳の半ばに達した田村夫婦が深夜、床に着いて居ると、何処かから、赤子の鳴き声が聞こえた。正門の辺りから、鳴き声がしている様に察し、二人は観音開きの正門を開けた。そこには粗末な産着で、木箱に入った赤子が泣き叫んでいた。義衛門は赤子を抱き抱えたが、泣き止まず妻の朝子に渡すと、途端に泣き止んだ。「俺の顔は怖いから」義衛門は呟いた。暫くすると、赤子は二人に向ってニッコリと笑った。そして安堵感か、朝子の腕の中で、スヤスヤと眠ってしまった。よく見ると、産着の中に手紙らしき物が見えた。それには「私は町の郭の女です。赤子は静と言います。静の父親は分りません。今、私は病に侵されています。先日も郭で吐血しました。多分、結核だと思います。郭からは、床払いを貰いました。私は北関東の、貧しい山村の小作の生れです。家族は、老いた両親と兄三人と妹の七人です。働き手の兄は三人供、軍隊に徴集されました。私はこの町の郭に、奉公に出されました。世間が言う、口減らしです。郷里に残った両親と妹は、自分達の食物も、国に接収され、次々に、他界してしました。私には、帰る宛が有りません。この町でも、資産家で優しい、田村様の噂は聞いて、おりました。田村様に、縋るしかないと思いました。どうか、静を助けて下さい。出生証明書は、産着の中に一緒に添えて有ります。宜しく、お願い申し上げます」と書いて有った。出生証明書にも、赤子の名前が静と記されてあった。まず二人は、赤子を母屋に連れ帰り、自分達の布団に寝かし着けた。育児経験の無い二人には、突然の出来事で、その夜は戸惑いの連続だった。
義衛門と朝子と女中のタキは話し合い、赤子の母親が戻るのを、待つ事にした。しかし、十日は過ぎても、赤子の母親は現れなかった。義衛門は、郭に出向き、赤子の母親の名前と郷里の住所を教えて貰った。その際、郭から赤子の母親の写真を一枚渡された。写真は厚化粧をしているが、目鼻立ちがハッキリした、美しい女性だった。次に義衛門は、赤子の母親の消息を得る為に、警察と役所に向かった。役所の戸籍課で、以外な事実が判明した。赤子の母親の名前は内山雪で、五日前に行き倒れで亡くなって居た。死因は結核だった。田村夫婦が正門で赤子に対面してから、五日後の出来事であった。この町でも著名な資産家である田村義衛門は、大きな屋敷を構え、土蔵も有り、四十歳程のタキと言う女中も雇っていた。義衛門は、縫製工場で大儲け、一代で田村家の財を築いたが、子宝には恵まれなかった。家族が少ない田村
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