貴方の背中に、I LOVE YOU (前編)
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夫婦は、女中タキに対しては、家族同様な扱いだった。その夜、夫婦は話し合い、赤子を自分達の養子として、向かい入れる事を決めた。しかし、赤子とは、孫ほどの年齢差が有るので、赤子が物心付いた時には、自分達の事をお爺ちゃん・お婆ちゃんと呼ぶ様に躾ける(しつける)事とし、タキにも伝えた。義衛門は無骨者だが、商才に秀出ており、町の人々から人望が厚い人物だった。田村家には、町の有志などの訪問が、絶える事がなかった。妻の朝子は世話好きで有り、オッチョコチョイな性格でも有り、女中のタキは、生真面目で、少し厳しい性格であった。だが三人とも優しく、家族はそれなりに、調和が取れていた。義衛門は、静を養子にした時から、手記をとる様になった。それは、静の生い立ちから静の仕草・自分達の静への思いや、静の出来事など全が印され、郭から渡された実母の白黒写真も、表紙の裏に貼ってあった。義衛門は静が成人した暁には、この手記を渡す日が来るのを、悟っていた。
それから一ヶ月が過ぎたある日、赤子の静を連れた田村夫婦の姿が、雪の郷里の寺に在った。寺の住職に尋ねたら、雪の家族は皆、境内の合祀の墓に埋葬されていた。その墓は、とても貧祖なものだった。義衛門は住職の頼み、雪の遺骨を合祀の墓に納骨した。田村夫婦は墓前に向かい合掌し、自分達が静を、責任を持って育て上げる事を、雪に約束した。帰りに義衛門は住職に、自分が合祀の墓を改装したいと提案したら、住職も快く承諾してくれた。合祀の墓の傍に湧水(伏流水)が流れ出ていた。改装する合祀の墓の周りに、湧水を引き入れ池を造った。合祀の墓の横に墓誌を造り、まず内山雪の名前を刻み、納骨されている全ての故人名を刻んだ。義衛門は無宗派で、以前から戒名に疑問を持っていた。住職は墓誌に戒名を刻む様、主張したが、義衛門の強引な意思で、現世の俗名のみを刻む事になった。しかも義衛門は住職の読経も辞退し、他の宗教の聖職者の参拝も拒絶した。合祀の墓は、境内の中で最も立派な墓に出来上がった。二か月後、住職に依頼して、合祀の墓の開眼供養だけは読経で行い、赤子の静を含め田村家全員が参列した。そして毎年彼岸に、墓に訪れ参拝するのが、田村家の年中行事になった。いつの日か、墓の清水の池に蛍が住み着く様になった。それは近隣の評判となり蛍の墓と呼ばれ、夏場の風物詩になった。次第に、地元から、納骨を希望する者が現れ、納骨料を寺に納めれば、宗派を問わず誰でも快く受け入れた。
静が五歳頃のある日、薄い黒毛の子犬(雑種犬)を抱いて来て、タキに飼うように頼んだ。義衛門が未だ帰宅しておらず、タキは後から聞いておくと言い、取りあえず玄関に木箱を置き、その中に子犬を入れ牛乳を与えた。静は子犬を玄関で見詰め続け、下すら義衛門の帰りを待った。夕方、義衛門が帰宅した。静は即座、義衛門に子犬を飼う事を頼んだ。義衛門は少し
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