アインクラッド 後編
圏内事件 3
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ヒースクリフが眉を持ち上げ、ほう、と声を漏らす。と、横合いからいまいち話を理解できていない様子でエミが口を挟んできた。
「バグ……って、わたしあんまり詳しくないけど、何もしてないのにゲームがおかしくなっちゃうことだよね? でも、わたしそんなの今まで一度も聞いたことないよ?」
「ゲームデザイナーとカーディナルのエラー訂正機能が、それだけ良く出来ていたということだろうな。が、バグなんてものは、無くそうと思って無くせるものじゃない。露見していないものも含めて、どんなバグが幾つあるのかは知らないが……必ず、どこかには存在すると考えるべきだ。キリト、お前、今まで一つのバグや不具合も存在しないオンラインゲームなんてものを見たことがあるか?」
「……そりゃあ……」
ないけどさ、と呟き、キリトは口をつぐむ。全く考えていなかったという風な思案顔だ。
キリトがバグの可能性に思い至らなかったのも無理はない。そもそもこのゲームでは、先ほどエミが言ったとおりその類の報告が全くないからだ。それどころか、プレイヤー側の要求に対してサーバー側の処理が追いつかなくなるために生じる遅延――いわゆる《処理落ち》や《ラグ》さえ見かけた者はいない。それが一年以上も続いたため、プレイヤーたちは既に「そういうもの」なのだと認識して疑わなくなったのである。
「しかし、随分と断定的な口調だな。どこかでバグや不具合を見つけたことがあるのかい?」
ヒースクリフが問う。
「……いや。単に理論的可能性を指摘しただけだ」
目を瞑り、息を大きめに吐き出してから水を呷る。別に水が飲みたいわけではなく、表情が崩れそうなのを誤魔化すためのテクニックだ。
「……だとしても、今の時点でその可能性を検証するのはナンセンスだわ。仮に今回の件がバグによるものだったとして、確かめようがないもの」
とアスナ。
――いや。
マサキはカウンターに背中を預け、メニューが張り紙された壁の向こうを見た。
「……方法なら……」
マサキの口から、言葉が思考の検閲をすり抜けて漏れた。すぐ我に帰った思考回路が戻ってきて、続きをシャットアウト。中途半端に放り出された言の葉が、役割を遂げることなく仮想の空気に溶けていく。
馬鹿馬鹿しい。マサキは自分の思考を切り捨てた。そうしてバグを見つけたところで、一体どうなる? バグを直して終わりにするか?
……くだらない。それでは茅場を手助けするのと同じではないか。
それに、今更だ。
やる気があるのなら、とっくにやっていた。何度だって機会はあった。
この世界に来る前にも、来てからも。
昨日だって。
そして、今この瞬間だって。
その全てのチャンスを尽く手放してきたからこそ、今この瞬間もつつがなく世界は
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