幕間 〜二人の道化師〜
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…店長は私達に、ありがとう、と言ったのだから。
昏い瞳に輝いていた絶望の光は一生忘れない。アレは……私達が奪った命の怨嗟に等しい。
だから、というのもあるだろう。
黒麒麟の絶望が怖ろしくて、私は正体を明かさずに彼に近付いた。記憶を失っているのは聞いていたけど、もし記憶が戻ったら殺されるかもしれない、と。
私の中にある恐怖は、歌で人を救えないことに対するモノ。私達が歌うことで幸せになる人がいるから歌うのを止めない、止められない。私達が歌うことを止めたら、止めさせられたら、今まで失わせた命が全て無駄になる。
まだ夢を見る。人の死が、人の声が、人の涙が、人の怨嗟が……頭を支配して止まらない時がある。
強迫観念で歌っても想いは乗らない。涙を知っているから、私はもう……人を救いたくて救いたくて……歌えないことが嫌になった。
心の底からの想いは誰にも理解されないだろう。
此れは偽善だと誰かが言うかもしれない。
でも……救わせて欲しい。一人でも多くに希望の光を。一人でも多くに生きる歓びを。一人でも、絶望に屈さない力強さを。
きっと私は狂っている。もう、狂っているんだと思う。
人の死に触れた私には、他者の生を望まずに居られない。
あなた達が生きていることが素晴らしい。そして……私を生かしてくれた命に感謝を込めて、私は私の生を生きられる。
故に、弾劾の刃が怖ろしくて、彼を試した。
子供達と遊ぶ彼に近付き、街娘の振りをしていた。月ちゃんが隣に居ない時を狙って探りを入れていた。
黒麒麟がどんなモノなのか。そして秋くんが……どんな人なのか。
探っていた時からも、仲良くなってからも分かったのは一つだけ。
この人も黒麒麟も……私と同じく、舞台上で笑って踊る道化師だった。
ゆっくりと盃を傾ける。
仕事をしながらお酒を飲む彼に、おかわりをそっと注ぎたしても気付かない。
娘娘で夜遅くまで仕事をする彼は、どうやら店長と二人でお酒を飲みながらしていたらしく、今日は私も参加してみた。
といっても、私がすることは何も無い。秋くんに貰った“ぎたぁ”で“こぉど”を練習するくらいしかない。
筆を走らせていく彼と、帳簿を付けて行く店長。どちらも出来た男の人で、私が音を鳴らしても何も咎めることは無かった。
「秋くーん」
「んー?」
「“えふこぉど”が難しいよー」
「慣れたらすぐに弾けるようになるよ。反復練習が大事なんだ。頑張れ」
くつくつと喉を鳴らして仕事の手を休めない。蝋燭の明かりに照らされながら、彼の真剣な横顔に少しドキリとした。
また、しばらく音を出していた。
想いを乗せる為には、この楽器を使いこなさないと。
大切な愛しい
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