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花火
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第一章

                        花火
 彼は今死のうとしていた。死の床にあったのだ。
 周りには家族なり知人なりが集っている。随分な数だ。
「あんたも遂になあ」
「往生するんだな」
「色々あったけれど」
「これで終わりか」
「ははは、そうだよな」
 彼はその死の床からだ。笑顔で彼等に応えるのだった。
「おいらもこれで終わりだよ」
「どうだい?今の気持ちは」
「何か思い残すことはないかい?」
「そうだな。あの作品は書き終えたしな」
 彼の仕事は戯作家である。ある大作を手がけていたがそれを書き終えてだ。そのことについて満足した顔で話すのだった。
「それについてはもうな」
「思い残すことはない」
「そうだね」
「ああ、ないね」
 実際にそうだというのである。
「もうね。ないね」
「そうか、それだったら」
「もうこのまま往生するかい?」
「あの世に行くかい?」
「いや、一つだけ頼めるかな」
 ここでだ。彼はこう言うのであった。
「おいらの最後の願い。一つだけな」
「?願い?」
「何だよそれ」
「何だってんだよ」
「火葬にしてくれよ」
 こう言うのだった。
「いいな。それで死んでも身体を洗わなくていいからな」
「何だ?死んでもかい」
「それでいいのかい」
「ああ。死んだらすぐに火葬にしてくれよ」
 また言う彼だった。
「いいよな、それでな」
「何かよくわからないけれどな」
「身体を洗わないで火葬だな」
「そうしてくれtっていうんだな」
「ああ、それをしてくれよ」
 くれぐれもといった顔で話す彼だった。
「頼んだぜ、くれぐれもな」
「わかったよ。じゃあな」
「安心して死んでくれ」
「安らかにな」
「ああ。思えば面白い人生だったよ」
 満ち足りた笑みでの言葉だった。
「けれど最後の最後にもう一つやるか」
「?最後の最後?」
「何をするってんだよ」
「一体何考えてんだ?」
「ははは、いいから最後は頼んだぜ」
 ここでは多くを言わない彼だった。こう言うだけだった。
 そうしてそのうえで彼は布団の中で大往生を遂げた。確かに満ち足りた死に顔だったがそれでもだ。彼のその顔には。
 妙にだ。これからとってきおきの悪戯をする様な、期待しているような楽しみにしているような笑みがあった。その顔で死んだのだ。 

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