暁 〜小説投稿サイト〜
親孝行
第四章

[8]前話 [2]次話
「よかった、本当に」
「だからお父ちゃんはね」
「わしはか」
「そのまま静かにしていて」
 そしてとだ、香蓮は父と呼んだその相手にこうも言った。
「それでね」
「そのうえでか」
「そう、元気になったら」
 その時はというのだ。
「また働いてね」
「働かないとな」 
 男もこう言うのだった。
「やっぱりな」
「うん、こっちはこっちでね」
「わしはわしでな」
「けれどあんたもね」
 ここでだ、桃姫は夫にこう言った。
「よくあんなきつい仕事してるね」
「早馬か」
「いつも馬に乗って物凄く早く走るよな」
「それであちこちに文を送っている」
 それが彼の仕事だった。
「帝や大臣の方の文をな」
「本当に早くよね」
「馬を出来るだけ早く走らせてな」
「馬も大変だけれど乗って動かすあんたもね」
「馬に乗ることは好きだからな」
「それでもだよ。よくやるね」
「好きだからやるんだ」
 その仕事をしている理由はまさにこれだった。
「そういうことだよ」
「それで起き上がれる様になって」
「馬に乗れるだけの力が戻ればな」
 その時はというのだ。
「また乗るさ」
「やれやれね」
「ああ、それに今の病はな」
「早馬が理由じゃないから」
「重い病だった」
 亭主は自分から言った。
「随分とな」
「けれどお薬買ったから」
 香蓮が父に言う。
「お父ちゃん助かったのよ」
「そうだな、しかしな」
「そのお薬がね」
 娘は苦笑いになって父にこうも言った。
「物凄く高かったから」
「だから借金もしたんだったな」
「それこそ気が遠くなる位のね」
「本当に済まないな」
 父は自分を助けてくれた女房と娘に礼を述べた。
「お陰で助かった」
「いいのよ、お礼は」
 香蓮はその父に微笑んでこう返した。
「家族だから」
「だからか」
「お金を稼ぐことは出来てるし」
「薬を買ってもか」
「そう、じゃあこれからはね」
「店をだな」
「もっと大きくしてね」
 そしてと言うのだった、父に。
「それでね」
「店自体も増やしてか」
「国で一番の質屋になるから」
「そうか、そうしてくれるか」
「だからお父ちゃんは元気になって」
「また馬丁の仕事をしろか」
「頑張ってね」
 香蓮は父に笑顔で言うのだった。
「何の心配もなくね」
「悪いな、しかし父親だってのにな」
 ここでだ、父は娘に申し訳なさそうにこうも言った。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ