もう一つの運命編
第12話 一つ目の果実
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は、本当は舞さんがなるべきもの。二つ目の果実が舞さんに渡った以上、これはこの世に在ってはいけないモノ)
巴は、傷ついた初瀬と、黄金に輝く果実を何度も見比べ――果実を口にしようとした。
だが、その巴を止めたのは、誰より傷ついているはずの初瀬自身だった。
初瀬は巴の、果実を持ったほうの手首を掴み、首を振った。
(どうしてこの人はいつもこんなに正しく在れるんだろう。いつだってこの人の正しさが、過ちかけたわたしを救ってくれる)
巴は、覚悟を決めた。
初瀬の手を振り解き、黄金の果実に歯を立てた。
甘酸っぱい。味だけならリンゴそのものだ。
微かな蜜が口の中に溜まったのを確かめた巴は、黄金の果実を捨て、両手で初瀬の顔を固定し、キスをした。
口移しで黄金の果実の蜜を初瀬に飲ませる。そのための、何ら色めいたものもない、悲しいキス。
(過ちでいい。この人を助けられるなら、わたしがいくらでも間違おう)
やがて唇が離れる。
呆然としている初瀬と目が合った。
「傷、まだ、痛みますか」
初瀬は、はっとしたように全身あちこちに手を当てた。
「痛みが消えた……トモ、」
巴は人差し指で初瀬の口を塞ぎ、いびつに微笑んだ。
「ばかやろう…っ」
初瀬が巴を乱暴に抱き寄せた。
両腕にきつく締められて苦しい。汗臭いし、血なまぐさい。
それでも、それも、生きていてこそだ。
巴は初瀬の背中に両腕を回し、強く強くしがみついた。
どれくらい抱き合っていただろうか。
ふと、初瀬の顔の角度が変わったのを、触れ合っていたから感じた。
巴は一度身を離し、初瀬の視線を追った。
その先で、地面に転がしたままの黄金の果実が、しおしおと萎んでいっていた。
まるで黄金の果実そのものの意思で、ここに在ることを拒むように。
巴は悟った。王妃が過剰なまでに黄金の果実の異能を使ったのは、こうなるためだったのだと。
(これで知恵の実は舞さんが持つ一つきりになった。歴史の整合性は崩れない)
思わぬ所で救われた巴は、何に対してか分からないままに「ありがとう」を言い、一筋、涙を流した。
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