夜の帳に半月が笑う
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溶け込むように黒に沈んでしまいたい、そう思えるのは贅沢なのかもしれない。
鈍った頭はあまり働かない。手足を動かすことさえ億劫だった。
あぐらを掻いた膝の上、すやすやと眠る少女の髪を優しく撫でながら、秋斗は星と月が煌く夜天の空に杯を掲げた。
「また潰れちまうなんて情けねぇ……」
グビリ、と酒を一口。
彼なりに今度は抑えて飲んでいたつもりが、やはり霞達に絡まれると限界まで飲まないなんてことは出来ないわけで……その上、酔いが回った状態でのまくら投げなど自殺行為に等しい。
楽しい夜だった。
そろそろ酔いが回ってきた頃に布団を敷いて、皆で枕をぶつけ合った。ただそれだけであるのに、子供のようにはしゃいで、笑って、騒いで、一人また一人と眠りに落ちて行った。
人が減った所で語りを始めれば、楽しくとも疲れが出て寝てしまう。彼も知らぬうちに寝た口である。
昼前までよく眠っていたおかげで浅い眠りで済んだ彼は目を覚まし、抱きついている雛里と朔夜をそっと剥がして……そうして、彼はいつもの如く一人夜天の下に来ていた……はずだった。
あまり酔わなかった雛里に気付かれてしまえば、一人で寝るつもりなのかと不安がられるのは当然で、こんな状況に陥るのも詮無きかな。
整えられた庭先の東屋。二人は静かに星の下。緩やかに流れる時間に身を任せている。
「……ったく、敵わないなぁ」
眠いのについて来る小さな少女。この腕の中にすっぽりと収まる彼女は、やはり秋斗の心を容易く見抜く。
皆が寝静まってから起きるだろう。誰にも気づかれないように部屋を出て、朝方に何食わぬ顔で帰ってくるのだろう。それくらい、雛里には読めていた。
蒼髪を静かに梳く。クセが付かないように、するり、と二つに結っている紐を外して、優しく優しく撫でていた。
温もりがあった。彼女の小さな身体から秋斗に与えられる温もりが、心の中まで溶け込むかのよう。
抱きつくその腕、可愛らしい寝息、容易く手折れてしまいそうな存在……その全てが大切に感じる。
彼女の存在を感じていられるだけで自分は壊れない気がした。自己乖離していた自分の心が彼女を想うだけで一つになって、その都度、自らのちっぽけさに呆れが漏れる。
ふにゃり、と彼女が笑った。何かいい夢を見ているのかもしれない。
抱きつく腕が少しだけ強められ、彼は彼女の頭を優しく二回、ぽんぽんと叩く。
「お前さんの夢の中で、黒麒麟は笑ってるのかな?」
思い出した感情の一つ。抗い難い救済欲求に、少しだけズキリと頭が痛んだ。
彼は絶望の一端に触れた。
其処は救いたいと願う渇望の海で、切り捨てるしか出来ない自分への憎しみで溢れかえる、昏い暗い怨嗟による自責の炎の中。
殺してくれと叫んでも、自分
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