夜の帳に半月が笑う
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ゃみを漏らした。
「……そろそろ寝に行くとするよ」
「勝手にすれば?」
「風邪引くぞ?」
「要らない心配は止めてさっさと行きなさい、バカ秋斗」
そうかい、と彼は一言。雛里を抱きかかえたまま、ゆっくりと立ち上がった。
急にふっと消えた支えと温もりに、少しばかり華琳は寂しく感じた。
黒がゆっくりと隣を過ぎる……寸前、華琳の肩にふわりと布が広がった。
「んじゃあ、おやすみ……華琳」
雛里に掛けていた自分の外套が、華琳の背にゆるりと落ちる。
さりげなくそういう事をする辺り、また華琳の苛立ちを増やして睨みつけさせているのだが……背を向けたまま過ぎ去る彼には分からなかった。
「……おやすみ」
小さな声は聞こえたか分からない。普通に返すことが出来なかった。
「……なによ、ばか。そういう言葉は雛里にだけ言っておきなさい」
それでは意味が無いのだと、華琳だけは分かっている。
秋斗が何を伝えたかったかなど、彼女が読み取れないわけもなく。
ほんの少し自分の心が満たされていることに気付いて、口惜しさと嬉しさの綯い交ぜになった心を持て余す。
空を見上げた。
綺麗な半月がにこやかに笑っていた。
いい夜なのに、彼のせいで曖昧に乱されてしまった。
届いたのは世の全てを愛する覇王に対しての、愚かで真っ直ぐな想いの刃。
浮ついたモノなどでは無い純粋なその感情を直接届けられて、与える側と常に身を高めてきたからどうしたらいいか分からなかった。
「あなたのそういうとこ……嫌いよ」
不思議な温もりと鋭い痛みが胸に一つずつ。
からから、からからと、黒の笑う声が華琳の耳に響いていた。
蛇足 〜月は日輪の光にて輝くか〜
衣擦れの音が一つ。動く気配が一つ。絶対に彼はこうして一人で出て行くことは分かっていた。
浅い眠りの微睡の中、気を張っていたから彼の動く気配に気付けた。
追い掛けようか……そんな気持ちは、続いて鳴る一つの音に霧散する。
そうだ。彼女が追い掛けるべき。やっぱり秋斗さんのことを一番分かっているから、雛里ちゃんは迷わず動く。
白蓮さんの絶望を受け止めたあの夜みたいなこと……望まない方がいい。
去って行く気配を余所に、ズキリと痛む胸は知らない振り。
それでいい。彼の隣は雛里ちゃんじゃないとダメなんだから。
「……呆れるほどバカな男……そう思わない? ねぇ、月」
「へぅっ」
ギクリと身体が跳ねた。
耳元の近くで聞こえたのは、この人が私を抱き締めているからだ。
まくら投げが終わってイロイロとお話をして……何故か私を抱き枕にして寝ていた“彼
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