夜の帳に半月が笑う
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、雛里の頭を撫でやった。この小さな少女が救われることを願って。そして少しだけ謝罪の意味を込めて。
今から言う言葉は誰にも聞かれないからいい。華琳にだけは伝えておかなければならない気がした。
夜天に浮かぶ半月を見上げて、コツンと彼女の頭に自分の頭を合わせる。
その小さな背中と存在に、どれだけの責と期待を背負っていることか。
一人で高みを目指し続ける彼女は、きっと一人ぼっちの寂しがり屋だ。
英雄を求める気質は寂しさから。隣に並べる程の存在を欲するのは、楽しいからだけでは無くて、人間なら誰しもにある理解して欲しいという欲求の発露。
分かってる、理解してる、同じ想いだ……などとは言えるわけも無い。
だから……彼は口を引き裂いた。
「……クク、愛してるぜ、覇王殿」
「なっ!」
唐突な言の葉。堪らず、華琳の身体が固まる。驚いた声が珍しくて、秋斗はからからと笑った。
「あははっ! おっかしぃなぁ……華琳がそんな声を出すなんて……クク」
「な、何を言って……あなたねぇ!」
「他の言葉が浮かばないんだよ。安心してくれ。お前さんが考えてるような意味じゃねぇんだから」
「それでもっ……それなら言わずに居ればいいじゃないっ!」
「伝えたくなった。そんだけだ」
飄々としてる彼はいつも通り。
同じ言葉でも違った色を持つソレは、彼なりの贈り物。
励まされるのも嫌だろう、分かった気になられるのも嫌だろう、頼れなどとは口が裂けても言えないし、傍に居るなんて言うわけにも行かない。
それをすれば彼女の誇りを穢してしまう。だからあくまで、自分勝手に与えるのが彼の遣り方。
せめて真名で呼ばずに覇王殿と呼ぶことくらいしか……本当にそれ以外で、華琳に伝えたい言葉も方法も彼には思い浮かばなかったのだ。
横暴に想いを与えてくる男だと分かっていた。悪戯が好きなことも、人の心を読み取るに長けていることも分かっていた。だというのに、彼女はぎゅうと拳を握って悔しさを表す。
――……秋斗のくせに、秋斗のくせに、秋斗のくせに、秋斗のくせにっ
分かっていても、華琳は耳まで真っ赤に染める。
有り得ない言の葉。使い方としては間違い……それでも其処に乗っている意味は、大きな想いでしかなく、華琳に向けられたのは甘くはないが暖かい想い。
ギシリ、と歯が鳴った。動揺している自分が愚かしい。睨みつけてやりたくとも、振り返ることだけは絶対にしたくなかった。
どちらも何も話さない時間が過ぎて行く。
話し掛けることなどしたくない華琳と、穏やかさに身を任せるだけの秋斗。
背中合わせで二人は同時に、グビリ、と酒を飲みほした。
幾分、風が一陣吹き抜ける。少しばかり寒く感じたのか、雛里がくちゅんと可愛らしいくし
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