暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
夜の帳に半月が笑う
[7/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、雛里の頭を撫でやった。この小さな少女が救われることを願って。そして少しだけ謝罪の意味を込めて。
 今から言う言葉は誰にも聞かれないからいい。華琳にだけは伝えておかなければならない気がした。
 夜天に浮かぶ半月を見上げて、コツンと彼女の頭に自分の頭を合わせる。

 その小さな背中と存在に、どれだけの責と期待を背負っていることか。
 一人で高みを目指し続ける彼女は、きっと一人ぼっちの寂しがり屋だ。
 英雄を求める気質は寂しさから。隣に並べる程の存在を欲するのは、楽しいからだけでは無くて、人間なら誰しもにある理解して欲しいという欲求の発露。

 分かってる、理解してる、同じ想いだ……などとは言えるわけも無い。
 だから……彼は口を引き裂いた。

「……クク、愛してるぜ、覇王殿」
「なっ!」

 唐突な言の葉。堪らず、華琳の身体が固まる。驚いた声が珍しくて、秋斗はからからと笑った。

「あははっ! おっかしぃなぁ……華琳がそんな声を出すなんて……クク」
「な、何を言って……あなたねぇ!」
「他の言葉が浮かばないんだよ。安心してくれ。お前さんが考えてるような意味じゃねぇんだから」
「それでもっ……それなら言わずに居ればいいじゃないっ!」
「伝えたくなった。そんだけだ」

 飄々としてる彼はいつも通り。
 同じ言葉でも違った色を持つソレは、彼なりの贈り物。
 励まされるのも嫌だろう、分かった気になられるのも嫌だろう、頼れなどとは口が裂けても言えないし、傍に居るなんて言うわけにも行かない。
 それをすれば彼女の誇りを穢してしまう。だからあくまで、自分勝手に与えるのが彼の遣り方。
 せめて真名で呼ばずに覇王殿と呼ぶことくらいしか……本当にそれ以外で、華琳に伝えたい言葉も方法も彼には思い浮かばなかったのだ。

 横暴に想いを与えてくる男だと分かっていた。悪戯が好きなことも、人の心を読み取るに長けていることも分かっていた。だというのに、彼女はぎゅうと拳を握って悔しさを表す。

――……秋斗のくせに、秋斗のくせに、秋斗のくせに、秋斗のくせにっ

 分かっていても、華琳は耳まで真っ赤に染める。
 有り得ない言の葉。使い方としては間違い……それでも其処に乗っている意味は、大きな想いでしかなく、華琳に向けられたのは甘くはないが暖かい想い。
 ギシリ、と歯が鳴った。動揺している自分が愚かしい。睨みつけてやりたくとも、振り返ることだけは絶対にしたくなかった。

 どちらも何も話さない時間が過ぎて行く。
 話し掛けることなどしたくない華琳と、穏やかさに身を任せるだけの秋斗。
 背中合わせで二人は同時に、グビリ、と酒を飲みほした。
 幾分、風が一陣吹き抜ける。少しばかり寒く感じたのか、雛里がくちゅんと可愛らしいくし
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ