夜の帳に半月が笑う
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華琳は知らないのだ。彼の知っているモノを全て作り上げることなど不可能だと。
今の時代のモノがどれだけ求めても手に入らないモノで、人間が不老不死や甦りを望むことと同じレベルの話なのだ。
夜を昼のように明るくする術も、大陸だけでなくこの星の隅々まで行くことが出来る空を飛ぶ機械も、光の速さで地球の裏側と繋がれる人類の英知の塊も、星そのモノを壊しかねない最悪の兵器も……彼しか知らないし、彼には作れない。長い長い時代を積み上げ、受け継ぎ、研鑽し、そうして作られた大切な才の結晶なのだ。彼如きでどうこうなる問題ではない。
そしてあの平穏な国が、どれほど幸せであったか彼は知っているし、彼がこの世界に作りたいと目指している理想の場所の一つだったことも知っている。
だから可笑しくて哀しくて、笑った。
生きている間では絶対に届かないから、哀しかった。逆転した立場から見える自分がちっぽけ過ぎて、可笑しかった。
「いやなに……やってみろ。出来るもんなら」
これが精いっぱいの強がり。彼に出来る嘘は、本当に少ない。不敵な笑みで、作った声で、自分を大きく見せるしか方法が無いのだ。
出来ないと分かっているから傲慢に聞こえて、その言い方こそが、華琳を勘違いの渦中に落とすと知っている。知ってて騙すしか、彼には出来ない。
「むかつく男ね」
「ああ、俺は悪い奴なんでね」
もっと違う出会い方をしたかった、なんて考えてしまうのは彼の弱さだろう。ただの人として出会えたなら、憧れて追い掛け追い抜こうと出来ただろうから。
この関係が居心地良くとも、本当なら話すことすら出来ないほど目に見えて格が違うはずなのに。
――お前さんを現代に連れて行ったら、どんだけ面白いんだろうな?
きっと彼女のことだ。国の一つでも治めようとするに違いない。やり手の会社の社長にでもなっているかもしれない。下手をすれば世界全てを掌握しかねないとさえ、秋斗には感じる。
――それでも……生まれ落ちたこの世界で生き抜くことを選ぶんだろ? 自分の誇りを命を賭けて示すことこそお前のお前たる所以だ……そうだろ、華琳?
ゆっくりと首を振って、ため息を一つ。今はいいか、と思考を切って捨てた。
「なぁ、華琳」
「……」
「拗ねるなよ、聞きたいことがあるんだ」
「……なに?」
声を掛けて見ても帰ってくるのは不機嫌で、彼はくつくつと喉を鳴らした。聞いてくれるだけありがたい、と。
「自分の領地しか守ろうとしない奴はお前の隣には並べない。そうだな?」
平坦に、感情を見せず、ただ投げかけるように。愛おしさすら垣間見えたはずのその声は、少年のように笑う彼にしては珍しく大人びていた。
ゆったりと、華琳は秋斗の背に己が背をもたれ掛け
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