夜の帳に半月が笑う
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がやらねば生きている全てのモノが壊される。
死なせてくれと喚いても、誰かが死ぬことを知っているから死ねるわけなどない。
どうやって世界を変えればいい。それさえ分からぬ手探りで、自分の選択を信じるしかない雁字搦めの操り人形。
「誰にも言えないもんな……」
誰かに吐き出すことは弱さだ。知って貰いたいという弱さで、それを見せれば耐えきれぬはずは無く……例え愛しい少女が認めてくれようとも、皆で支え合うことなど出来なくなる選択肢。
――いや……それだけじゃない。
考えながら否定が浮かぶ。
自分ならこう思う。自分なら、絶対に許せない事がある、と。
――俺以外の誰も嘘つきなんかにしたくない。
自分はこの世界での偽物だから、生きている皆はせめて自分の人生を生きて欲しい。
願いは、たった一つ。黒麒麟の願いは既に世に示されていた。
「世に平穏を……近しいもんだけが全てじゃないから当然っちゃ当然かね。俺と黒麒麟が欲しいのは、今の敵味方全てがいつの日にか平穏に暮らせる世界なんだから」
また、コクリと酒を飲んだ。
喉を通る熱が心地いい。酒気の帯びた吐息が宙に消え、寂しさからか、ほんの少しだけ腕の中の彼女を抱き締める腕に力を込めた。
「で? お前さんは何をしに来たんだ?」
くくっと喉を鳴らした。次いで出る言の葉は後ろに向けて。鋭くなった感覚は酒を飲んでいても鈍らず、人の気配を感じ取っていた。
後ろでも喉が鳴った。楽しそうな足取りはよく知っているモノで、きっと二つの螺旋が揺れている。
「可愛い幼女と秘密の逢瀬を満喫している変態男の様子を見に来たのよ」
「不純な言い方しやがって」
「あら、合ってるじゃない」
「……まあ、いいけどよ。
来たんなら一緒に酒飲もうぜ。こんな夜に一人酒ってのもなんだし」
クスクスと笑う彼女に、彼はため息を一つ。
寝る時は必ず気を張っている華琳のことだからバレるとは思っていた。それでも放置してくれることに賭けたのだが、結果は大外れである。
ぽんぽんと隣を叩いて示す。並んで座って、杯を掲げることを秋斗は望んだ。しかし……
「ふふ、ありがとう。“お酒は”貰うわ」
「相変わらずなこって」
「私だもの。それにしても……良い夜ね。空が綺麗だわ」
小さく息を付いた華琳は、置かれた杯を手に取って、彼に背を向けるカタチで座った。
「並ばせてはくれないってか」
「さあ? 私がこうしたい気分だった、それじゃ不満?」
「いんや、いいんじゃねぇかな」
背中合わせで互いの体温がじわりと伝わる。寄り掛かる重みはそれほどなく、互いの表情は見えないし測れない。
これでいい、と二人は思う。面と向かい合ったら、横に並んだら、きっと何かしら
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