第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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―否、謎の男を前に何かを前に、怯えていた。
「用がなければさっさと去れ。お前は昔の俺にそっくりだ……見ていて酷く気分が悪い」
「―――ッ!!」
もう、耐えられなかった。顔を真っ赤に染め、父親を怒鳴りつけたかった。しかし、何とかその衝動を押さえ込むと、イザベラはジョゼフに背中を見せて駆け出した。そして入ってきたドアを入った時以上の音でドアを叩きつける。
赤く充血した目で自分を睨みつけた後、イザベラは何処かへといった。実の娘にあんな目で見られたというのに、しかしジョゼフの心には篠波一つ動いてはいなかった。
血を分けた娘でもそうなのだ。
心底つまらんとばかりに大きく溜め息を吐いたジョゼフは、気を取り直そうとしたのか再度チェストに手を伸ばそうとした時、背後から声が掛けられた。
「―――いいのか?」
「何がだ?」
「娘なのだろう」
ジョゼフの背後、何もない空間が陽炎のように一瞬揺らいだ後、そこには一人の男が立っていた。ジョゼフの背後に影のように寄り添う男は、闇を連想させる黒いローブを身につけ、頭には羽が付いた幅広い帽子を被っている。
護衛、と言うよりも暗殺者、否、死神といった方が合っているか。
それは黒ずくめの格好と言うよりも、その身に纏う雰囲気―――手に触れられそうなほどの濃密な死の気配故に。
不吉を形にしたかのような存在から、背後から前触れもなく掛けられながら、しかしジョゼフは驚いた様子も見せずに。当たり前のように落ち着いた様子で背後を振り返った。
「それが?」
「……血を分けた子に対して、何か思うものはないのか?」
「何も。娘と言ってもただ己の血を引いた他人でしかない。血が繋がっているからといって何か特別な繋がりがあるでもない。少なくとも、おれはアレが生まれてから一度たりとも愛した事はないぞ」
「だから殺さなかった」
「その通り」
何の感情も宿さない瞳で自分を見下ろしてくる相手に、ジョゼフは気負いなく肩を竦めて見せる。
それを怒りも呆れもせず男は見下ろしながら小さく呟いた。
それは、目の前に座るジョゼフにも聞こえない小ささで。
「愛していれば殺し、愛していないから殺さない、か……どちらがあの娘にとって幸いだったのか……あの女も、どうなのだろうな」
「……どうかしたか?」
背後を振り返ったジョゼフが、じろじろと無遠慮に背後に立つ男を眺める。
ほんの少し前までは、このように話しかけてくる事はなかった。
初期はその名の通り戦いに狂って全く会話が成り立たなかったのが嘘のように、最近は普通に会話が出来ていた。
特にそれが顕著になってきたのは数日前―――
「まあいい。それで、調子はどうだ」
「……問題はない」
「なら、勝てそうか?」
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