第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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…お考えなっているのですか?」
「何を考えているだと? 貴様に言ってもしょうのないことだ」
震えながらも必死にイザベラは言い募るが、ジョゼフはさも鬱陶しとばかりに羽虫でも追い払うかのような仕草を向ける。
一瞬だけ向けられた父の視線。胡乱げに見上げられた目の中に、自分の姿が映っていない事に気付いたイザベラは、とうとう認めてしまった。
グッと噛み締めた唇から差した紅よりも赤い血が流れた。
苦い鉄の味を噛み締めながら、イザベラは滲む視界で目の前でベッドの上に座る男を見下ろす。
ああ、やはりそうだった……父上は……この人は、わたしを……。
今思えば、実の所、子供の頃から気付いてはいたのだろう。
しかし、その度に否定していた。
会えないのは、仕事が忙しいからと。
話しをしてくれないのは、父親である前に王だからと。
抱きしめてくれないのは、わたしが、娘である前に王女だからと。
教師に褒められた時、誕生日の前日、初めてのパーティーの前……期待する度に裏切られ、言い訳をした。
きっと、多分、もしかしたら、何か……本当は分かっていたくせに……。
気付いていた筈なのに……見ないふり。
でも、それはもう出来ない。
何故ならば、見てしまった。
この人の目を。
わたしを見る、瞳を。
「父上……あなたはわたしを愛してはいなかったのですね……」
震える、か細い声が口から漏れる。
苦い血が混じった苦しい声音が震え。
「何を言っている?」
呆けた言葉が返ってくる。
何を今更、ではない。
何をこの状況で言っているのだ、でもない。
そのままの意味での、『何を言っている?』、だ……。
「そう、ですね……」
力なく顔が垂れる。
ぎりぎりに保っていたナニカが切れ、ぼろぼろと溢れるものがあった。
「わたし、本当に、何を言っているんでしょうか……」
本当に、分かっていない顔で自分を見上げる男。
その瞳に、わたしは映ってはいるが、見てはいない。
いや、わたしだけではない。
この人は、何も見てはいないのだ。
娘だけではない。
物も、人も、家畜も、家も、街も、都市も…そして国さえも……。
ああ、ならこの男は一体何なのか?
何も見ない、見ようともしないこの男は、一体……。
何時からか、寒気を感じないのに細く震える身体。両手で抑えなければ、みっともないほど身体を震わせていただろう。
イザベラはガチガチと歯を鳴らしながら目の前の、父親――
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