第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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尽な現状に救いを求め縋った寺院での、中立を宣言するだけの日和見主義の司教たちの頼りのなさ。
華の都と呼ばれたリュティスは、最早その機能を半ば麻痺させていた。
それは軍もまた同じであった。
国への愛着や侵略者である敵に対する嫌悪感から、王軍の殆どはジョゼフ王についてはいるが、ガリア最強の一角であった東薔薇騎士団の反乱と壊滅という味方への恐怖や不信から、その士気はない、と言っても過言ではなかった。
だからこそ皆、自ずと理解していた。
自分たちは敗北するだろうと。
そう遠くない未来に起こるだろう敗北を思い、誰もが不安を抱く中―――しかし唯一人、ガリア王国の中心であり頂点である人物の中には、一片の不安もなかった。
リュティスの郊外にあるヴェルサルテイル宮殿の一角―――グラン・トロワで、一人ジョゼフは物思いに耽っていた。各国の大使や文官が囲んでいたテーブルの代わりに運ばれたベッドの上に胡座をかきながら、ガリア王ジョゼフは床の上に置かれた古びたチェストを見下ろしていた。
チェストを見下ろすジョゼフの瞳は懐かしそうに細められ、頬はゆるみ穏やかな表情を形作っていた。
壊れ物を扱うかのように、優しくチェストを撫でる。
触れる度に、ジョゼフの脳裏に過去の思い出が蘇る。
幼い頃、兄弟でかくれんぼをした時の事だ。ただのチェストに見えるが、中は魔法により三倍以上に広がっており、子供一人ぐらいなら楽に入れるようになっていた。あの頃の自分は、ここに隠れればいかにあの優秀な弟であってもみつけられないだろうと考えていたが、弟は“”ディテクト・マジック”により見事に見つけ出したのだ。
そう、当時若干五歳であった弟にだ。
あの頃から、自分は一度として弟が悔しがる顔というものを見たことがなかった。
勉強も魔法も何もかも、弟にまともに勝てた試しはない。
せめて一度、それが例え何かの戯れでも良かった。悔しがる弟の姿さえ見られていたならば、自分はここまで狂わなかったのではないか?
もし、そんな姿を見ていたならば、何かが違ったかもしれなかった。
しかし、もう何もかも遅すぎた。
弟が好きだった華の都と詠われたリュティスは今や風前の灯火―――そこかしこから諍いや憎しみの声が上がるのが聞こえてくる。
壊れた街を見て、その要因となった自分は、喜ぶのでもなく悲しむでもなく。
何の感情も浮かぶ事はなかった。
「結局、どうあってもおれの感情は震えぬか……ここまで来て涙一つすら流れぬ自分は……一体、どうすればおれの心は震えるのだろうな、シャルル」
疲れたように溜め息を吐きながら、ジョゼフが天井を仰いだ時、背後のドアが派手な音を立て開かれた。
「父上ッ!」
ドレスの端を盛大にひらめかせながら大股でジョゼフに
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