第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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バサは自ら頭を士郎の掌に押し付けるようにしてそのまま立ち上がった。
立ち上がろうとするタバサに逆らわず、手を自分の元に戻した士郎が、座っている自分よりも僅かに視線が高くなった立ち上がったタバサを見ている。そんな士郎の視線から逃れるように、タバサは乱れた髪を手櫛で整えながら士郎に背を向けた。
「もう、行く」
「そうか」
「―――その」
「何だ?」
タバサは逡巡するように、背後の士郎を肩越しに視線だけチラチラと送った後、誰もいない場所へ向け振り返る事なく感謝を口にする。
「っ、ぅ……あ、ありが、とう」
「ああ」
「……少し、考えておく」
無理矢理搾り出したような声に、士郎は満足そうに頷く。
何を考えておくのか、士郎にはちゃんと分かっている。
「そう、か」
「じゃぁ……」
士郎に背を向けたまま、振り返る事もなく立ち去ろうとするタバサの背中。
それに、士郎は―――
「タバサ―――最後に言っておくことがあった」
「…………」
返事はない、振り向くこともない、しかし、タバサの足は止まった。
立ち止まり、杖を抱きしめて立つタバサの背中に、士郎は一呼吸を置いて口を開いた。
「タバサがどんな道を選んだとしても、これまでタバサが歩んできた道はなかった事にはならない」
「―――っ」
びくりと、夜の闇の中でも分かる程、タバサの身体が大きく動いた。
しかし、振り返ることもなく、言葉を向けられることもない。
だから、士郎は続けた。
「これまで歩んできた道の全てが、今のお前を形作っている」
震える肩を見つめながら、士郎は最後の言葉を口にした。
「だから、もし何かに迷ったとしたら、“シャルロット・エレーヌ・オルレアン”だけでなく、“タバサ”として考えてみろ」
タバサの顔が、肩越しに振り返る。
何を言おうとしたのか、何をしようとしたのか、自分でも分からないまま、衝動的に振り返ったタバサの目に、街を照らす揺らめく炎へ向かって階段を降りていく士郎の背中が映る。
追いかける事も出来ず立ち尽くすタバサの耳に、風に乗って、士郎の言葉が耳に届く。
「―――きっと“タバサ”だからこそ、出せる答えもある筈だ」
ガリア王国の首都リュティスは、混乱の坩堝と化していた。
南部諸侯の離反、ロマリア宗教庁によるガリアを敵とした“聖戦”の発令。これらの要因から、地方から逃げ出した貴族や平民等の様々な難民が首都であるリュティスへと集まってきたのだ。大国の首都とは言え限界はある。既に許容量を越えた人数を収めたばかりか、日々の食料や先が見えない不安などから難民、地元民関係なく起きる諍い。突然の宗教府からの“聖敵”の認定や、理不
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