第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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讐《夢》がある事を、彼が嬉しがるだろうか?
なぜ、どうして彼はわたしに“夢”があれば、嬉しいのだろうか?
―――士郎は笑って応えた。
「俺は、笑っているタバサが好きだ」
「―――ッ?!」
ぐるぐると出口が分からず空回りする思考が、一瞬で吹き飛んだ。
顔だけでなく、全身が赤く熱く燃え上がるのを自覚する。
「笑っているタバサは、とても可愛いからな」
「な、な、なに、なにを……」
チラリと赤くなった顔で士郎を見上げるタバサ。
先程のように、自分が考えているようなものではないとわかっている……そう、ちゃんとわかっているのだが……。
……感情と理性は別物である。
わかっていながらも、どうしようもない。
身体が燃えるのを止める事は、どうしても出来ない。
「さっき、笑っただろ」
「……わからない」
「俺が“夢”はあるか聞いた時だ、小さな、本当に小さな微笑みだったが、俺は、それがとても綺麗に、尊いものに感じた」
「……で、でも、わたし、わたしは―――」
わたしは復讐を誓った。
わたしを守って死んだ人に、わたしがこの手に掛けた人に―――わたしにそう願う人に。
でも……わたしは本当に復讐を望んでいるのか?
怒りはある。
憎しみはある。
殺したいと言う気持ちに、偽りはない。
しかし―――わたしは本当にそれを望んでいるのか?
「―――わたしは……」
「だから、これだけは覚えていてくれ」
自分でも何を言おうとしていたのか分からない言葉を遮られ、若干の安堵の息を漏らすタバサの頭に、士郎はぽんっ、と軽くその硬く広い掌を置いた。
「ぁ」
小さな、しかし喜色が多分に含んだ声を上げるタバサの頭を、士郎は髪を梳くように優しく撫でる。
「お前が笑って迎えられる未来のためなら、俺はタバサの味方だ」
「そんな……ずるい」
士郎に撫でられるまま、顔を伏せながらタバサは少し拗ねたような調子の声を上げる。
心の奥でとぐろを巻いていた重く嫌なものが、士郎に撫でられただけで軽くなっていくのを自覚する。単純で、甘い自分の姿に、若干の自己嫌悪に陥る。昔なら、想像もしなかった自分が、今ここにいる。
そう、こんな拗ねた子供のような姿を見せる―――自分がいる。
珍しいタバサの声の様子に、士郎は軽く目を見張るが、直ぐに目元を柔らかくすると手に少し力を込めた。
「何がだ?」
「……そういうところ」
きっと、彼には何時ものことなのだろう。
自分が今にも心臓が壊れそうな程高鳴っているというのに、変わらず自然体のまま。
それが少し嫌で、でも、とても安心する。
撫でる力が少し強くなると、猫が擦り寄るようにタ
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