第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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……一瞬、頭に浮かんだ光景が、首を横に振ろうとしたタバサの動きを、僅かに鈍らせた。
「っ」
しかし、直ぐにタバサは否定するようにハッキリと顔を横に振る。
だが、タバサが顔を横に振った姿を見た士郎は、微かに口元に笑みを浮かべた。
「そう、か」
「ぇ?」
何処か安心したような、ほっとした笑みを浮かべた士郎に、タバサが戸惑った声を上げる。
「やっぱり、タバサは大丈夫だな」
「え?」
タバサから顔を離した士郎が空を仰ぐ。星空を見上げる瞳が、眩しげに細められる。その横で、空を仰ぐ士郎をタバサが困惑した顔で見つめていた。
「何で、そんなことが……」
「気付かなかったのか?」
士郎は空を仰いだまま、視線だけをタバサに落とす。
「笑っていたぞ」
「―――え?」
反射的に頬に手を当てるタバサ。触れた指の先の感触は何時もと変わらない。訝しげに向ける視線の先にいる士郎は星空を見上げており、どんな顔をしているのかタバサには見えない。
「何を考えていたんだ?」
「……なに、も」
何故か、士郎とは逆に地面に視線を落としてしまう。
「まあ、無理して聞きはしないが」
「だから、わたしは何も―――!」
自分の想像以上に荒々しく硬い声を上げてしまったのか、タバサは口元を抑えながら不安気な様子で士郎を見上げた。
「そうか」
「……あ」
ぽん、と軽く士郎の手がタバサの頭の上に置かれ、直ぐに離れる。
小さく声を漏らし、離れていく手をタバサの目が無意識に追いかけると、自分を見下ろす士郎の目と視線があう。
「気に障ったらすまなかった。ただ、嬉しくてな」
「うれ、しい?」
反射的に視線を外そうとしたタバサの動きが止まる。
「ああ、タバサに“夢”があると思ってな」
「何で、わたしに“夢”があったら嬉しいの?」
タバサの問いに―――
タバサには、士郎の口にする言葉の意味が分からなかった。
進むべき道がわからない自分に、“夢”があると言う。
そんな筈はない。
あるわけがない。
あるとすれば、それは“復讐”だけの筈だ。
父を殺し―――母を狂わせ―――王座を奪った男に対する復讐。
確かに、それはある。
誓いがあるのだから。
そのために、自分は今まで生き残ってきた。
この手を汚してきた。
生にしがみついてきた。
命を捨てて助けてくれた人がいた。
だから―――必ずあの男に報いを受けさせる。
そうでなければ―――
しかし、それは―――
それは……“夢”と言えるのだろうか?
何より、彼がそんな事を“夢”と言うのだろうか?
そんな|復
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