第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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………」
タバサは応えない。
抱きしめた杖に額を当て、顔を俯かせたまま黙り込んでいる。
それを士郎は、黙って見つめる。
すると、身体を細く震わせ始めたタバサは、顔を上げる事なく口を開いた。
「わからない……わたしは、もう、何も、かも…何が正しいのか、間違っているのか……自分がどうしたいのか、したくないのか……わたしは……」
震える声は、何処か投げやりな声に聞こえた。
「わからない、だから―――」
顔を上げたタバサが、士郎を見つめる。揺れる瞳はまるで迷子の幼子のようで。縋る対象を求め揺れている。
だから、続く言葉を察した士郎は、
「―――なあ」
「あな―――え?」
タバサの言葉を遮った。
言葉を遮られ、続く言葉を飲み込み目を白黒させながら見上げてくるタバサを、士郎はじっと見つめる。
「タバサは」
「あ、はぃ……」
真っ直ぐに見つめてくる士郎の瞳と言葉に、落ち着いてき始めていた筈の頬に熱がこもり出す。
身体は固まり、身動きが出来ない。
呼吸が速く、短くなり、吐息が濡れ始める。
「な、なに?」
「“夢”はあるか?」
「え? ゆ、夢?」
パチクリと一度大きく瞬きをするタバサに、士郎は頷いてみせる。
「そ―――それは、あなたの、その“正義の味方”になるというような……そんな“夢”のこと?」
「ああ」
「そんなものは――」
―――笑っている。
キラキラと輝くラグドリアン湖の畔で、広げた真っ白なシーツの上に座った皆が、並べられた沢山のお菓子を取り囲み笑っている。
お菓子を食べようとしているルイズを挟み込むように左右に座ったキュルケとジェシカが、何時ものようにルイズを揶揄って怒らせている姿が見える。
何時ものように使い魔でもない何処から来たかも分からない動物に埋もれながら、エレオノール先生とロングビルが何かを話しながら紅茶とお菓子を楽しんでいる姿が見える。
人の姿になったシルフィードが、口いっぱいにお菓子を頬張った姿で必死にカップの紅茶を飲んでいる姿が見える。
山盛りのクッキーを一枚ずつ、しかし変わらいないペースで食べ続けるアルトの横で、目を丸くしながらも、定期的に空になるカップに紅茶を注いでいるティファニアの姿が見える。
怒った声が聞こえる。
小さな悲鳴も聞こえる。
でも、楽しそうだ。
みんな、みんな、楽しそうに笑っている。
幸せだと、笑っている。
皆の楽しげな声が大きく広い空へと響いていく。
それを見ながら、わたしも笑っている。
笑うわたしの隣には、同じように笑う母さまの姿と、シロウの姿が――――――
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