第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
[11/11]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
誰に、とは聞かない。
相手が誰かなど、二人にとってそれは周知であるからだ。
「わからない」
「ほう……」
男の言葉に、意外そうにジョゼフの目が丸くなる。
「アレを組み込んだお前が負けるかもと。今の貴様は文字通り一国を滅ぼすことが可能な力を秘めているのだぞ。そうでなくとも、アレから得られる力は無限と感じられる筈だ。それでも負ける可能性があると言うのか?」
「奴の底を、まだ見ていない」
胸―――人であれば心臓がある位置を押さえながら、男は呟いた。
その瞬間、男の全身が揺らめき、男の姿が幻のように消えてしまう。
だが、それが幻ではなかったことの証拠に、ジョゼフの全身から吹き出した汗が証明していた。
平民の家ならば一軒まるごと入ってしまう程の広い部屋は、熱砂の砂漠の如き暑さを宿している。
ジョゼフは後から後から吹き出る汗を拭いながら、歪んだ笑みを浮かべた。
「そう言えば、あのエルフは俺の事を“悪魔”と言っていたが、ならば、その“悪魔”によって造られたお前は一体何なのだろうな?」
今も何処かにいるだろう男を思いジョゼフは呟く。男の胸―――心臓がある位置に埋め込まれたソレを造ったエルフが、その使用目的を聞いて口にした言葉。自分が“虚無の使い手”だと知ったから“悪魔”と言ったのか、それとも造らせた“アレ”を何に利用するかを聞いて“悪魔”と言ったのか。
まあ、どちらでもいいことか、と頭を振ったジョゼフが、男から視線を離し再度足元に置かれたチェストに目を向ける。
そして過去の思い出を振り返るジョゼフ。
その後ろ。
黒ずくめの男の姿は既になく。
代わりに男が立っていた場所の床が、まるで高熱で炙ったかのように波打つように歪んでおり、その中心には男の足跡と思われるものが残されていた。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ