第十五章 忘却の夢迷宮
第三話 ずるい男と壊れた男
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「あ〜……すまない。驚かせてしまったか?」
「……べ、別に……驚いて、ない」
「……そうか」
士郎に顔を向けると直ぐにまた慌てて顔を俯かせるタバサの姿に、士郎は頬を掻きながら小さく苦笑を浮かべる。
「―――今日、リネン川の中洲でガリアとの一騎打ちがあっただろ」
唐突に、士郎が口を開く。
タバサの視線は下に向けられたまま、士郎には向けられてはいない。
それをチラリと見下ろした士郎は、一度口を閉じ、開いた。
「その最後の相手から、タバサに渡してくれと手紙を預かってな」
顔を俯かせたまま、タバサの視線が士郎に向けられる。士郎に向けられるタバサの視線の中には、鋭い光が宿っていた。それに導かれるように、士郎はタバサに受け取った手紙を手渡した。手紙を受け取ったタバサは、直ぐに封を破り中身を検める。すっかり日が落ちて視界が悪くなったことから、杖に明かりを灯し読み始める。
渡された手紙は、タバサの知る人物からのものであった。
名を、“バッソ・カステルモール”と言った。
亡きタバサの父親の信奉者の一人。風のスクウェア・クラスのメイジであり、東薔薇騎士団の団長でもある優秀な男である。何度かタバサとは任務を共にした事もあった。
手紙には、カステルモールがガリアの陰謀に気付き、何とか防ごうとジョゼフ王暗殺を実行するも、結果はカステルモールを含め僅か数名を残し全滅したと書かれていた。ガリアの騎士の中でも東薔薇騎士団は精鋭揃いである。その騎士団を壊滅させたのは、何とたった一人の男だと言う。そして何とか命からがら逃げ延びたカステルモールは、再起のため、生き残った数名の部下と共に傭兵の振りをしガリア軍に潜り込んでいると。
手紙の最後には、『正統な王として即位を宣言されたし』と書かれており、そうすれば、ガリア王軍の中から内応し、必ずや勝利する事が出来るとあった。
最後の一行を読み終えたタバサは顔を上げ、深く、細く息を吐く。
「読ませてもらっても良いか?」
士郎の言葉にこくりと一つ頷いてみせるタバサ。手紙を受け取った士郎は、タバサが差し出す杖の光の下、開いた手紙を読み始める。
「……タバサは、どうするつもりなんだ」
読み終えた手紙を閉じながら、士郎はタバサに問い掛ける。
顔は前に、しかし視線は横に―――タバサに向けられていた。
タバサは光が消えた杖を胸に抱えながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
「わからない……どうすればいいのか……」
自身の身長を超える杖を抱きしめながら、縮こまるタバサは小さく首を横に振った。左右に振られるタバサの頭を見下ろしていた士郎は、顔を上げ、二つの月と無数の星が広がる空を見上げ。
ポツリと、呟く。
「それでも、選ぶしかない」
「…
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