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SAO−銀ノ月−
第短編話 U
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何を言っているか分からないけれど、雰囲気というかなんというか。

「ただし! あたしから一本取ったらね!」

「む……」

 翔希が少し苦々しげな表情を浮かべたが、すぐにその表情はキリッとした集中するような表情に変わる。ALO事件が終わって既に久しく、リハビリを続けてきた翔希の勘も大分戻ってきた。タダで教えるのも、何だか少し気にくわなかった直葉により、その条件は提案され――

「で、勝ったわけ?」

「……最後にお情けで一本だけ」

 ――大体負けたものの最後の最後で一本を取り、俺とリズはALOにあるシルフ領の高台へとたどり着いていた。プレイヤーどころかモンスターも立ち寄らぬ秘境に、その温泉のようなものは営業しているのだとか。

 ただし直葉が紹介を躊躇った理由は、その温泉がいわゆる曰わくつきの所だったということだ。何でも、行ったパーティーのプレイヤーがほぼ全てが、温泉に入る死に戻りしている、という。……ここで厄介なのは、ほぼ全て、という点だった。リーファも訪れたそうだが、何も起きずに温泉を浴びて帰り、同行していたレコンは半死半生で命からがら逃げ延びたという。

 腕に自信のあるプレイヤーたちが条件を調べ上げていそうな場所だが、シルフ領が世界樹攻略に力を入れたことで放っておかれ、他種族が入ろうにもシルフ領にあるため調べることも出来ない。そこにALO事件のことでこのゲーム自体が一時中断され、今は新生アインクラッドが――と、何があるわけでもないこの場所は、ただただ放置されていた。

「いーい景色にいい風。それに温泉もあるってんなら最高じゃない!」

 そんな場所でも――あるいはそんな場所だからか――立地条件はリズを唸らせるほど、最高の条件が揃っていた。シルフ領特有の美しい景観。それ以外にも、踏む芝生はほのかに柔らかく、昼寝でもしようものなら一瞬で意識を失いそうなものだ。

「でも大丈夫なの? その曰わくつき、ってのは」

 目的地に向けて草原を歩いていると、少し不安げな表情のリズが問いかけてきていた。行けば半殺しで帰ってこれればマシ、などと言われれば、流石の彼女も二の足を踏む。

「温泉のためだからな」

「そうね。何があろうと絶対温泉入ってやるんだから!」

 ……二の足を踏むことになったとしても、彼女が覚悟したなら後はその道に一直線だ。念のために持ったままのメイスを振り、その並々ならぬ熱意を素振りに費やしていた。

 そして歩くことしばし。木で作られた柵に囲まれる、小屋のような建物が見えてきた。直葉が言っていた『営業』という言葉の通り、どうやらあれは更衣室であるらしい。周りの柵は覗きが現れないための物……なのだろうが、全ての者が翼を持っているこの世界で、効果があるかどうかは不明だった。


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