第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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部屋から出て行った。
タバサがキュルケに顔を向けると、その小さな口を開き。
「あなたは――」
「あたしもついていくわ」
タバサの言葉を遮るように、キュルケはタバサに話しかける。
「……危険」
「分かってる。実はさっきの執事から、あなたのことを全部聞いちゃったの」
「……そう」
「ごめんね」
「……いい」
互いに言葉は少なかったが、気分は悪くはなかった。
軽く頭を下げているタバサの頭を優しく撫でながら、キュルケはタバサに笑いかける。
「そう……ありがとう」
何度も寝言で母を呼んでいたタバサも、ようやく穏やかな寝息を立て始めた。
自分の胸に顔を埋める、タバサの頭を撫でながら、キュルケはこの小さな友人のことを想う。
スッポリと腕の中に収まる、この小さな身体で、これまで一体、どれだけの重荷に耐えてきたのか……想像すら出来ない。
この子は今まで何を選び、何を捨て、何を手に入れたのか……。
……母を守るため、自身を危険に晒すタバサ。
……心配する者……同情する者はいても、助けてくれる者はいなかったのだろう。
ふと、土くれのフーケの隠れ家に馬車で向かう時のことを思い出す。
シロウが全てを救う正義の味方になりたいと言った時、いつもらしからぬ様子を見せたタバサ。
救われずにいる自分の目の前で、全てを救いたいとのたまうシロウに頭に来てもおかしくはないと、小さくため息を吐く。
「シロウ……」
目を瞑ると、ハッキリと彼の姿が脳裏に浮かぶ。
出身も素性も何も分からない、何もかも不明瞭な男。
だけど……彼が優しく、暖かく、強い男だと言うことは知っている。
彼にこのことを伝えれば、きっと力になってくれるだろう……。
でも……何故か伝える気が湧かない……。
薄く目を開けて、眠るタバサの顔を見つめる。
心と表情を凍てつかせた少女。その姿に何かが重なる。ぼんやりとしたそれは、ハッキリと形を取らない。
うとうとと瞼が落ちていき、まどろみに身を任せながら、優しく胸に縋りついてくる少女を抱きしめる。凍てついた少女の心を溶かすように……。
眠りに落ちる直前。
夢と現の狭間。
朧げだった影が、男の姿を取った――――――
「ッッッ!!!!」
一瞬にして目が覚める。
恐怖に目を見開く。
身体が小刻みに震える。
ぞっとするほど、身体が冷え込む。
「あ、れは……」
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