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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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拶に対する返事は……

「下がりなさいっ無礼者ッ!」
「っ」

 グラスを投げつけられるというものだった。
 下げていた頭に当たったグラスに入っていた水が、頭と背中を濡らす。

「誰が……誰が王位を狙うなどと……っ! 出て行きなさいッ!! さあっ早くッ!! 早くッ!!」

 髪を振り乱し、唾を飛ばしながら喚く母の声を受けながら、頭を上げる。

「ああ、シャルロット。わたしの大切な、可愛いシャルロット。安心なさい、決してあなたに寂しい思いをさせはしません……何をしているのですか」

 愛おしげに人形に頬をすり寄せながら、女性は蔑んだ目をタバサに向ける。
 その様子に、タバサは小さく笑みを浮かべた。
 優しく、そして愛おしげに笑うタバサ。
 濡れた髪から垂れた水滴が目尻に滴る。水滴は涙のように目尻から頬を伝い、あご先から地面に落ちていく。

「今すぐここから出て行けッ!!」

 窓ガラスが揺れる程の怒声を浴びたタバサは、それに従うように母に背を向け、扉に向かって歩き始めた。扉に手を掛けると、振り返ることなく、タバサは小さく声を零す。

「あなたの夫を、心を殺した者共の首を、いずれここに並べてみせます。それまで、どうかお待ち下さい」

 タバサが扉から手を離すと、開いた窓から吹き込んできた風が、扉を勢いよく閉める。首の後ろに触れた風は、初夏にもかかわらず、寒気がするほど冷たかった。








「――『タバサ』とは、お嬢様が奥様から贈られた人形にお付けになった名前です」
「……そう」

 執事――ペルスランから聞かされた話しは、キュルケの想像以上のものだった。
 継承争いで殺された父親。
 身代わりに水魔法の毒を呷った母親。
 失った言葉と表情。
 狂った母親と自身の身を守るため、絶望的な王家の命に従う日々。

 雪風という二つ名を持つ少女。
 あの小さな身体に宿る心に吹き荒れているだろう雪風は、いつか止むことがあるのだろうか。

 目の奥がじんわりと熱くなる。流れ用とするものを耐えるように、そっと目尻を抑える。
 
「お嬢様」

 扉が開く音共に、ベルトランが声を上げる。
 首を動かすと、こちらに向かってタバサが歩いてくる。ベルトランは一礼すると、懐から一枚の手紙を取り出す。忌々しそうに手紙を睨みつけた後、その手紙をタバサに手渡した。

「王家からの指令でございます」
「そう」

 無造作に封を切って、内容を確認すると、タバサは何でもないことのようにペルトランに声をかけた。

「明日から取り掛かる」
「かしこまりました。使者にはそのように取り次いでおきます……御武運をお祈りいたします」 

 タバサの言葉に、静かに一礼すると、ペルトランは
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