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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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、出向かいにいた老僕が、ワインとお菓子が乗ったトレーを持って現れた。
 老僕は洗練された手つきで、キュルケの前にワインとお菓子を置くと、頭を下げ、立ち去ろうとしたが、その前にキュルケはその背中に声をかけた。

「ねえ、このお屋敷には、あなたしかいないのかしら?」

 振り返った老僕は、恭しく頭を下げると、笑いながらも探るような目をキュルケに向けた。それに気付きながらも、キュルケは艶然とした笑みを向けている。

「いえ、シャルロットお嬢様のお母上がいらっしゃいます」
「そう」
 
 顎を軽く引いて頷いたキュルケに、老僕は頭を下げたままの姿で声をかけた。

「失礼ですが、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」
「そうだけど……」

 執事はタバサではなく、シャルロットと言った。オルレアンと言う家名に聞き覚えがある気がしたキュルケが、小さく口の中で呟いていると、はたと思い出す。オルレアン家とは……。

「王弟家じゃない」

 軽く目を見張りながら、声を漏らすと、背を伸ばし、笑みを浮かべながらも目が笑っていない執事を見上げる。

「ねえ、どうして王弟家の紋章じゃなく、不名誉印を門に飾っているのかしら」
「それは、そのミス……」
「ツェルプストー。ゲルマニア貴族のフォン・ツェルプストーよ。それで、事情はお聞きしてもよろしいかしら? この家のことや、あの子……タバサが何故偽名を使って留学してきたのかを」

 言いよどむ執事に、ニッコリと笑いかける。

「ゲルマニアの……そう、ですか」

 笑みが浮かんだ顔を一瞬歪めた執事だが、すぐに元の笑みを浮かべた。しかし、その目には、悲しげな色がハッキリと見える。

「お嬢様は、ご自身のことを『タバサ』と名乗っていらっしゃるのですか……。今のお嬢様が、お友達をお連れになるのは、初めてのことです。分かりました。ツェルプストー様を信じ、お話しましょう」

 そして丁重に頭を下げると、胸に手を当てる。 
 
「それでは、このオルレアン家の執事である。このわたくし、ペルスランが知る限りのことをお話します」
 
 薄暗い天井を一度仰ぎ見ると、決意の秘めた目を、笑いながらも真剣な目をしているキュルケに向けた。

「……この屋敷は牢獄なのです」










 タバサの目の前には、人形を抱えた女性が立っている。
 人形を抱えた女性は、人形を守るように両腕でしっかりと抱きしめ、タバサを睨みつけている。五十代に見えるその女性が、まだ三十代であることをタバサは知っていた。
 鈍く澱んだ目で向ける女性に、タバサは深く頭を下げる。

「ただいま帰りました……母様」

 いつも通りの抑揚のない声は、しかし微かに震えていた。
 帰りの挨
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