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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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るタバサの耳にも届くことはなかった。








 馬車に揺られること、二泊と三日。国境の石の門を潜ると、そこはガリアだった。

「でも、原因は何なのかしらね?」

 向かいに座っているタバサに、小首を傾げながら尋ねてみる。

「……ま、いいけどね」

 ピクリとも反応しないタバサの様子に、視線を落としながら小さくため息をつく。ガリアに近づくにつれ、タバサの様子は明らかに変化していった。良い方ではなく、悪い方にだ。始めの方は、まだ小さな反応はそれなりにあったのだが、ガリアの国境を超えた頃には、このようにピクリとも反応することがなくなったのだ。

 まるでと言うよりも、人形そのもののタバサの姿が見ていられなく、視線を窓の外に移動させると、先程の会話のネタが目に入った。

「……綺麗な湖ね」

 キュルケの視線の先には、太陽の光を反射させ、キラキラと水面が輝く大きな湖があった。向こう岸が見えない程の巨大な湖の美しさに、思わず感嘆の声が漏れる。湖の水辺には、様々な種類の花が、色鮮やかに咲いていた。そして、不思議なことに、その水面には、水辺に咲いている花が見えた。
 ガリアの関所で、衛子がラグドリアン湖の水位が上がっていると言っていたが、どうやら本当のようだ。それも水面に咲く花が萎れていないことから、かなりの速度で上がっているようだ。
 衛子もそんなに雨が降っているわけでもないのにと、不思議な顔をしていたが……。

(……何が原因なのかしら) 

 



 馬車が湖から離れ、森の中を進んでいると、空けた場所で、農民たちが休んでいる姿が見えた。赤々としたリンゴで一杯の籠が目に入ったキュルケは、馬車を止めさせると、窓を開けて農民に声を掛けた。

「ねえっ! その籠の中のリンゴを売ってちょうだいっ!」

 帰属から声を掛けられ、慌ててリンゴで一杯の籠を抱えて、一人の農民が馬車に向かって走ってきた。

「へ、へえっ! い、いくつでしょうか?」
「二個ちょうだい」

 頭を下げ、見上げてくる農民に、銅貨を渡しながら言うと、目を見開き、驚きの声を上げた。

「お、多すぎでさあ、これじゃあ、籠の中のリンゴ全部でも足りなくなっちまいやす」
「そう、なら釣りは取っといていいわよ」
「へ、へえ」

 恐縮そうに頭を再度下げる農民に手を振って答えると、渡された二つのリンゴの内、一つをタバサの膝上の本の上に置く。タバサは本の上に乗ったリンゴを動かすことなく、今度は赤いリンゴを見つめ始める。そんなタバサを横目で見ながら、キュルケは手に持ったリンゴを齧った。

「ふうん……美味しいじゃない。ねえ、ここの領主は誰なの?」
「へえ、その、領主はいやせんです。この辺は、ラグドリアンの直轄領なん
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