第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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胸の位置にあるタバサの頭を優しく撫でながら、キュルケは馬車の外を眺める。
タバサの瞳にも似た、雲一つない青い空を見上げながら小さく呟く。
「友達だしね」
返事を期待していた訳ではないが、やはりその呟きにタバサが応えることはなかった。それでも、何処か寂しさを感じてしまい、思わず顔が垂れると、丁度馬車とすれ違う一団が目に入った。
全員がスッポリとフードが付いているマントを着ているため、顔も服装も何もかも分からなかったが、マントから突き出ている杖が出ていた。どうやら貴族の様だ。それも、杖の造りから、どうやら軍人だろう。戦時中だしね、と思いながらも、その姿を目で追っていると、
「へえ」
思わず感嘆の声が上がった。
一団の先頭にいる者の顔が、フードの隙間から見えたのだ。美形なら見慣れているキュルケでも、思わずため息が漏れる程のいい男だった。しかし、いや、やはりと言うべきか、以前ほど胸が踊ることは無かった。知らず苦笑いを浮かぶ顔を、手でそっと撫でると、去って行く一団から目を逸らした。
「ん? ……あれ?」
視線を馬車の中に戻した時、キュルケはふと先程顔が見えた男を、何処かで見たような気がしたのだ。あの涼しげな目元が印象的な男……何処だったかしら? 思い出せそうで思い出せない、そのもどかしげな感覚に、段々と眉間に皺が寄っていく。
「ま、いっか」
いくら考えても思い出せず、眉間の皺を消してしまう。相も変わらず本に視線を落としているタバサの身体を、軽く抱きしめると、馬車の中の暗い天井を見上げる。
「……何か……最近多いわね、こういうの」
思い出せそうで思い出せないと言う感覚は、キュルケにとっては、実を言うと最近馴染み深いものであった。と言っても、それは人のことを思い出せないというものではなく、
「……どんな夢だったのかしら……」
夢なのだ。最近、キュルケは朝泣きながら目が覚めることが度々あった。そしてそれは、涙だけでなく、激しい動悸や荒い呼吸、原因は多分、夢だと思うだけど……。
「……やっぱり、思い出せないわね」
先ほどよりも、深い皺が眉間に刻まれるが……やはり思い出せない。
しかし……その夢がとても悲しく、辛く、痛々しいものだったというのは、何となく覚えている。
ゆっくりと目を閉じる。
馬車の暗い天井から、暗い目蓋の裏に視線を移すと、ぼんやりと浮かんでくるものがある。
それは……
……炎
……血
……剣
……そして
「……赤い……男……」
小さく、小さく呟いたその言葉は、膝の上にい
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