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剣の丘に花は咲く 
第四章 誓約の水精霊
第六話 凍りつくもの
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 士郎がセーラー服姿のシエスタを鑑賞していたころ、キュルケはタバサと共に馬車の上で揺られていた。馬車の中では、キュルケがタバサを膝の上に乗せている。学院の男なら、躊躇いもせず大金を払うだろう、柔らかなキュルケの膝の上にいるのもかかわらず、タバサは相変わらずの無表情で、本を読んでいる。そんないつも通りのタバサの頬を、キュルケは詰まらなさそうな顔をしながら、指で摘むと、左右に交互に引張ていた。

「むに〜……むにょ〜ん……ふよよ〜ん…………はぁ……」

 暫らくの間、タバサの頬を弄んでいたキュルケだが、何の反応を示さないタバサの様子に、小さく溜め息をつく。そして、タバサの背中に、しなだれかかるように抱きついた。タバサの頬に、甘えるように自分の頬を擦り付けながら、横目でタバサの顔を見つめる。

(やっぱり……ちょっと変ね……)

 何故、今キュルケがタバサと共に馬車に揺られているのかというと、それは二日前、キュルケがタバサの部屋に遊びに行った時のことだった。キュルケがドアを開けると、バッグの中に服を詰めているタバサがいたのだ。どうしたのかと聞いてみたところ、実家に帰るといつも通りの無表情で答えたタバサに、何か引っかかるものがあったキュルケは、タバサについていくことにしたのだ……理由はそれだけでは無かったが……。
 そして今日の朝、タバサと共に学院の外に出てみると、そこにはタバサの実家から派遣されてきた馬車が待っていた。シルフィードに乗って帰るのかと思っていたキュルケだが、乗って帰らないということをこれ幸いと、シルフィードの上にフレイムを乗せ、自分はタバサと一緒に馬車に乗り込んだ。
 それから数時間後、今もキュルケとタバサは馬車に揺られている。



 いつもと変わらないようでありながら、何処かおかしいタバサの様子に、タバサの身体に回す手に少し力が込もる。
 キュルケは最近、自分が不安定であることを自覚していた。
 いつも余裕を持って、好きに、自由に生活していたキュルケだったが、最近、その生活に楽しくなくなってきたのだ。ハンサムな男子生徒達から愛の言葉を投げかけられても、高価なプレゼントを渡されても……全くといって心が動かないのだ。
 飽きたのではない……と思う。愛を囁かれるのは快感だし、美しい宝石を貰えば嬉しいのだが……何かが違う……そう、心が動かないのだ。
 だからといって、無感動になっているわけではないのだ、それどころか、反対に不自然な程に心が騒ぐことがある。
 しかしそれは……たった一人の男に対してだけだった。
 彼に話しかけられると、それがたわいのない詰まらない話しでも、極上の美男子からの愛の囁きよりも心が騒いだ……。
 単に頭を撫でられただけでも、百戦錬磨の女たらしの愛撫以上の快感が身体を走った……。
 彼が他
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