明日への翼
05 PROMENADE
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他力本願寺の母屋の玄関先。
ウルドが電話を取っていた。
相手は天上界のベルダンディーのようだ。
『愛鈴はどうしてますか』
「──えっ、ああ、あの娘なら今お風呂に入ってるわよ」
『そうですか……では、くれぐれも夜更かしをさせないようにしてくださいね』
「大丈夫よぉ、あなた、母親になって心配性になったんじゃない?」
『わかりました。では、今夜はこれで』
受話器を静かに置いた。
同居している恵が後ろから声を掛けた。
腕時計を見ながら、困惑顔だ。
「ねぇ、もう九時よ。あの娘まだ帰って来ないわよ」
「んー……少し遅いかな、まあ、大丈夫よ」
「そりゃ、普通の子供じゃないし、心配はないと思うけど。連絡もなしに夜遅くなるのはどうかと思うわ」
愛鈴のことらしい。
してみるとウルドが「お風呂に入っている」といったのは嘘だったのか。
余計な心配を掛けたくないと配慮だろうけれど、それにしても。
「それもそうね。戻ってきたら私からきちんと言っておくから」
交通事故で死んだ螢一は解脱して、天上界に昇り、神となった。ベルダンディーとの間に一児を儲け、今では天上界でユグドラシルのハード管理神という要職の身にある。
ウルドは愛鈴を連れて「地上界の勉強」だと、他力本願寺に降りてきたのだ。
であるなら、ウルドは愛鈴の保護者ってことになるし、もう少し厳しくてもいいのではないかと思うのだが。
夜の街。
遥か上空を飛ぶ人影があった。
愛鈴だ。
艶やかな黒髪を細く赤いリボンでツインテールに纏めている。半袖チェックのカッターシャツと濃紺のスラックス。
男の子みたいな格好だが快活な彼女にはよく似合っていた。
「遅くなっちゃった」
地上界は二度目だが、見るもの聞くもの総てが珍しく、あれこれと見て回っているうちに時間を忘れてしまっていたのだ。
今日は北九州まで足を伸ばした。
転移術で直接跳ぶことも考えたのだがやめておいた。地上界ではあまり大きな力を使わないようにと両親から言われていたからだ。
それにこうして夜の街を見るのも悪くは無かった。夜景が凄く綺麗だ。地上に光の砂を撒いたような景色は見ていて飽きなかった。
むしろそっちかもしれない。
上空から降下して電柱の頂上を軽く蹴る。現在の同じ年頃の子供からすると少し小柄な身体が夜の闇の中を舞う。ステルス状態にあるので誰にも見られる心配は無いが、それにしても大胆だ。
そう──それにしても、だ。
愛鈴にはひとつだけ悩みがあった。
川西家の二階のスクルドの部屋。
布団から身体を起こしたスクルドは大きく伸びをした。
以前の腰まであった長い黒髪はうなじの辺りでばっさりと切ってショートカットにしていた。手も足も伸びてすっかり大人の
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