閑話 第三話
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のだろう。
「てめぇら!! やっちま───」
彼の鬨の声は最後まで続くことはなかった。とんでもないスピードで突進を再開したクルセイド・アントが有無を言わさず三人の冒険者を壁に叩き付けたからだ。あまりの呆気なさに私が呆気に取られていると、蟻の複眼がギロリと私に向いた。「邪魔する奴がいなくなったな」そう言っているように思えた。
叩きつけられた冒険者三人は壁に減り込んでぴくりとも動かない。気絶しているのか、はたまた───いや、考えるのはよそう。一応相手の合意を得た上で行われた怪物進呈だ。下級冒険者がたまたま通りすがった上級冒険者に助けを請うようなものだったのだから、違反ではない。
生死は不明だが、ひとまず心の中で全力で謝り、右手に握る槍に汗ばむのを感じながら彼らに背を向けて走り出す。
彼らの犠牲を無駄にしてはならない。それが合法か否かは関係ない、結果として生きながられる道に繋がったのなら、それを全力で活用しなければ彼らに対して失礼だ。
私と蟻の死の鬼ごっこは、まだ続く。
◆
「はぁっ、はぁっ、はっ」
口の中に血の味が広がる。喉の奥がひりつくのを誤魔化すようにせり上がってきた唾を飲み下す。
『ギャアアアア!!!』
背を壁に軽く預けて肩で息をする。曲がり角のすぐ向こうに悪魔の蟻が苛立ちの叫びを迸らせる中、私は少しでも気を抜いた瞬間狂い出しそうな思考を必死に制御し続ける。
現状は、追い詰められたと言った方がいいだろう。楽観的観測は無駄だ。逃げ道は無いと考えた方が良い。
今私がいる座標は解らないけど、逃げ込んだ先が『回』という形の部屋なのは確かだ。そして、それが罠だったのだ。逃げ込んだときにはあったはずの通路が、一周回って戻ってきたときには塞がってしまっていたのだ。我が目を疑ったけど、他の壁と色が明らかに違ったから、入った者を閉じ込める罠だったと考えるのが妥当。最悪なのが、一緒にクルセイド・アントも閉じ込められている、ということだ。もしかしたら冒険者とモンスターが踏み込んだ時に発動する罠なのかもしれない。凶悪極まりない罠である。
一辺約25mの直方体の部屋の中央に、一辺約20mの正方形を底面とした柱がある構造だ。つまり曲がり角が四つ、直線の道が四つある密閉空間だ。そこが私とクルセイド・アントの決戦のリングだ。
正直言って、これ以上無いほど追い詰められた状況だが、同時にこれ以上無いほど私にアドバンテージが与えられた状態だ。なぜなら、未知の空間を逃げ続けるより把握している空間内で逃げ続けたほうが余程安全だし、曲がり角が四つもあるという性質上一直線上の徒競走に持ち込まれる可能性はぐっと減った。また部屋の真ん中を柱がぶち抜いている構造上、蟻は私が今どこにいるのか瞬時
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