第十六話
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私の目の前にいるのか……。あまり実感がない。迷宮神聖譚では彼女の容姿は『藍掛かった黒髪を背中まで伸ばした、生涯通して若々しい麗人』としか綴られていないから、全体像は読者の勝手だったせいでレイナとギャップが生じているのもそうだし、やはり『クレア・パールスは死んだ』という大前提が理解を拒んでいるのが大きい。
神に最も近づいた彼女なら、もはや何があってもそれなりの信憑性は取れるものだが、まさか転生を果たすとは誰も思うまい。
だけどレイナがクレア・パールスと同一人物だったとすると、レイナの異様な強さ全てに筋が通る。十三歳の少女が出来るはずのない所作ばかりだったし、何より薙刀の捌き方が迷宮神聖譚で綴られている通り神憑っている。本当にクレア・パールスは凡才だったのか、という議論は未だになされているが、その証人である神々は揃って頷いて「ただの少女だった」と断言している。迷宮神聖譚で『常人では一週間も耐えられない努力を一生涯貫き通した』と綴られているから、あの薙刀の捌き方は無窮の努力の果てに辿り着いた境地というわけだ。そういう意味に於いてクレア・パールスは努力の才人であったとも言えよう。
「黄金比は無い……かぁ」
薙刀が好まれない理由はよく知っている。リーチが長すぎるからではなく、振り回さないといけないからだ。冒険者は数の利で不利を覆そうと考え、パーティを組むようになり、ファミリアという組織を作った。ダンジョンに臨むときも集団なのだから、薙刀のようにぶんぶん振り回す武器は邪魔なことこの上ない。その点同じように柄の長い槍は突きに特化しているため見た目にそぐわずコンパクトだし、穂先の形状によっては薙ぐことだって出来る。冒険者が薙刀を選ぶメリットよりデメリットの方が遥かに大きいのだ。
クレア・パールスが薙刀を好んでいた理由は、そのデメリットが彼女の場合のみほとんど無くなるからだ。生涯ソロを貫いた彼女に集団戦というのは縁の無い話で、味方に被害が及ぶことはなく、敵から少しでも離れた場所から攻撃できる柄の長い武器こそ彼女にとって最高の武器だったのだ。薙ぐことに特化した薙刀ならば突くことに特化した槍より広いレンジを得られ、少量の力を遠心力で補強することが出来る。
それが、私が夢見てきた薙刀の実態だったのだ。それを理解しつつも、やはりどこかに黄金比はあるはずだと妄信し続けただけだった。
「私はあると思いますよ」
バラバラに砕けた夢を、夢を授けてくれた大英雄が一欠片ずつ拾い上げた。
「前世のころお世話になった刀匠が言ってました。『武器に絶対なんか無い。あんなもんは欠陥品だ』と、いつも悪口言ってました」
私はその欠片を拾う大英雄の姿を見つめること
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