第十六話
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静かに右手が半ばほどまで挙げられ、掌を天井に向けた状態で止まった。その掌に懐から取り出した剥ぎ取りナイフを浅く食い込ませ、白い掌から赤い血を流した。レイナは薄桃色の唇で、世界で一つしかないはずの魔法名を紡いだ。
「【ヒリング・パルス】」
「!?」
《神の恵み》と呼ばれた魔法は果たして、レイナの掌の傷を跡も残さず緑の燐光と共に消し去った。
私が夢を持つきっかけとなった人物について、可能な限り調べてきた。その一環として今は無き彼女が設立した冒険者指導施設で交付されていた参考書も集めたし、彼女にまつわる話も集めている。
【ヒリング・パルス】は中立を謳うギルドが、そして何より本人が認めた専用魔法だ。本来の詠唱式は彼女の発展アビリティによって魔法名に省略され、その絶大な効果と利便性を評価されて《神の恵み》と呼ばれたのだ。
魔法名はどの魔法に限らず固有のもので、二つとないものだ。レイナがその魔法名を口にし、その魔法が発動したならば、それだけで十分な証明だったと言える。
加え、私は十八階層で瀕死と言える状態になった。【エクスプロージョン】は発生源が近所というこの上ない欠点を抱えているから高火力と低燃費を誇っていた。その欠点を度外視して最大出力で放ったとなれば、私の体は四肢バラバラになっていても不思議ではない。
実際に爆風だけで体中の骨が木っ端微塵に砕かれて、副次的に内臓も滅茶苦茶になったはずだ。それだけで、世界最強の魔道師リヴェリアですら完治させるのは不可能の重態だったはず。
それをたった一瞬で完治されていた時点で、私は薄っすらと予感していた。世界中を探しても、それこそ神の恵みのような治癒魔法は、故クレア・パールスが持っていた魔法しかないはずなのだから。
頭で理解しても、やはり俄かに信じ難いものだ。何せ、クレア・パールスは数少ない生涯現役の冒険者であり、彼女の葬式に数多くの神が参列したほどだ。ギルド本部の前庭に作られた記念碑モニュメントに、彼女の死を惜しむ追悼の言葉が刻まれているのを私は見ている。
クレア・パールスは過去の大英雄。すでに亡くなった冒険者だ。
そんな彼女が今、私の目の前に座っている少女として復活した。神々が下界に降臨してから、古代では幻とされていた数々の現象が当然という認識に変わってきている現在だが、復活ないし転生とも言える現象を寛容できるほどではない。死人は死人として割り切られる世界だ。
生きる伝説は、自然の摂理と呼ぶべき死をも超えたというのか。
世界で唯一の魔法によって治癒されたレイナの手を愕然と見つめる私に、続けてレイナは言う。
「エイナさんから私は無所属と紹介されましたよね?」
「そ、そうね……って、まさか──」
「はい。私は【セレーネ・ファミ
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