第十六話
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、人がうわさするのを、やめさせようとしてもやめさせることはできない。冒険者やファミリアは情報収集を積極的に行うため、情報伝達の早さは光の速さにも劣らないだろう。噂を防ぐには種を出さないことが最善だ。
しかし、たった今、ナチュルにその種を渡そうとしているのだ。自分が避けたい状況に必ず発展する噂の種を、自ら進呈する形で。それは気分が重くなるに決まっている。
一方で、自分の正体を秘匿していたがために瀕死まで追い込んだのも事実。前世であれほど憎んでいた自分の至らなさで引き起こした事態だ。相応の責任を取らなくてはならないと考えた結果だった。
端麗な顔に気落ちの色を滲ませながら尋ねたレイナに、ナチュルは答えた。
「あるわ。というより、そこに行かないとコレを片付けられないから、行きましょうか」
多種多様な鉱石が突き破らんばかりに詰め込まれたバックパックを背に背負うナチュルが親指で指し示すと、「ついて来て」と言って長い足でずんずん歩いていった。
北東のメインストリートに向かって歩いていくナチュルを見て納得いったようにレイナも濃厚な茶色の髪を追いかける。
北東のメインストリートのわきに連ねるのは酒場などではなく、工具などを専門に取り扱う店だ。道を行く人々が着けているのは煤で黒い跡が付いた作業着で、いかにも職人という風立ちだ。ファミリアに無所属の市民労働者も多く、通りの奥にある大型の工場に入っていくのが伺える。
オラリオの利益の大本である魔石製品は、この北東の大通りで生産されているのである。
言うなれば工業特化の大通りには【ヘファイストス・ファミリア】の団員の工房が並んでいるのだ。下っ端の鍛冶師にもバベルにて作品の販売を許している主神は、この工業地域の一部の土地を丸ごと買収して、各団員に工房を与えているのだ。さすがに下っ端や中程の鍛冶師には共有工房が与えられているが、ロゴを刻むことを許されたような主神に実力を認められた鍛冶師には個別の工房が与えられる。
上級冒険者だけでなく主神からもその腕を高く評価されているナチュルにも個別工房が与えられており、そこならば誰の干渉を受けることは無い。
通り過ぎる傍から金属を鍛える音が響く細い路地で、ナチュルの足が止まった。
「ここよ」
メインストリートからさほど離れていない路地に立つナチュルの工房は、周りのものより一回り大きかった。彼女の工房の隣には倉庫も備え付けられており、ポケットから鍵を取り出したナチュルが中に入ってバックパックを逆さまにして中身を箱の中に入れていた。この倉庫も、ナチュル専用の倉庫である。それだけで彼女が凄腕の鍛冶師であることが証明されている。
空になったバックパックをレイナに返却したナチュルが古ぼけた木戸を開けて─鍵を掛けていなかった─
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