第十五話
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薙刀は、ナチュルの目には黄金に輝いて見えた。
自分の探していた黄金比は、目の前にあった。だが、レイナが振るう薙刀は自分が新米のときに作った駄作。過去の自分を殴りつけてやりたいくらい拙い出来であるはずの薙刀が、黄金比を奏でていた。
いや、違う、薙刀の黄金比は薙刀に無かったんだ。真に注目すべきは薙刀の使い手。その使い手が柄を握るだけで、どんな薙刀も黄金比となりうるものだった。
しかし、同時にナチュルは思った。その黄金比を手に入れるまでに、一体どれほどの努力が必要なのだろうかと。薙刀の軌跡を生み出すその腕に掛けられた途方もない試行錯誤と努力が垣間見え、ぞっとする意識。
そんなの、無理だ。どんなことをすれば、その努力を続けることが出来たんだ。そもそも、駆け出しの十三歳の少女では努力に費やす時間の絶対値が圧倒的に足りないはずだ。私が知る限り、史上で最も薙刀の黄金比に近づいた人物は一人しかいない。あの伝説の人を超えるほどの何かを、レイナは持っているのか。
目まぐるしく切り替わる疑問符に付いてこれなくなったナチュルはそこで思考を打ち切った。そして、その黄金比を目に焼き付けるためにレイナに意識を集中させた。
一輪と一輪の間を最短距離で駆け抜け、最短且つ最大の遠心力が乗せられた一撃を放ち、体を翻して掛ける。
途中で妨害に入る十を軽く超える触手の数々がその華奢な体に襲い掛かる。触手に包み込まれレイナの体が隠れた瞬間、何かが爆発したように蠕動する触手が内側から膨張し、一気に破裂、空中に緑の血潮をぶちまけるがレイナの衣服はおろか艶やかな黒髪に一滴たりともかからない。
はなから妨害なんて無かったように最短距離を突き進み、一閃。その繰り返しだった。
そして瞬きをしたころには、二十を超えていたはずの花たちは一匹残らず全て灰と割れた魔石に姿を変え、辺り一体に静けさを齎した。
ひゅん、と鋭く柄を振り血を払い落としたレイナと再び瞳が合う。だけど、そこには先ほどの深淵のような光は無く、清楚とした女の子の穏やかな光が戻っていた。ただし、少し気まずそうに焦点をずらしているが。
「地上に帰ったときに訳は全て話します。今はまだ、聞かないで下さい」
それでは帰りましょうか、と地面に三点着地した状態で固まっていたナチュルに、小さく白く細い腕が差し出される。
Lv.3に迫る力を持つ花の群れを全て一撃で葬った、Lv.1の少女の手。その掌から伝わってくる熱は温かく、少し儚げだった。
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