第六話
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けじゃない、抜き取った魔石を回収しても、そのどれにも傷らしい傷はついていないのです。さすがに地面に落ちたときに僅かに欠けてしまっていますが、それでも駆け出し冒険者が抜き取ったと言われて信じる冒険者はいないでしょう。それほど精密に抜き取られていて、拾っているリリはとんでもない勘違いをしていると思いました。
レイナ様は、私にスリをされるのを事前に察知していたのです。確証はないです、しかし、この有り様をまざまざと突きつけられればそう思えてしまいます。
瞬く間にバックパックが埋まっていく中、レイナ様は全く足を止める素振りも見せずに階段を下りていきます。今ではもうすでに十階層まで降りてきてしまいました。
それでもレイナ様の動きに滞りありません。ただ出会ったモンスターは悉く一撃で魔石を抜かれて土に還る運命を辿っていきます。ドロップアイテムもそこらかしこに落ちています。
群れに襲われても緊張する素振りすらみせず、淡々と葬り去っていきます。それにリリを配慮してか、群れに襲われた時に必ず自分に狙いが定まるように調整までしている始末です。
リリは付き添ったパーティに大量のモンスターを意図的にぶつけて自分だけ逃げる、ということを何度もしてきたから、モンスターの機微には敏感です。だから、レイナ様が私の方にモンスターが行かないように仕向けているのも解ってしまいます。
霧に包まれている十階層もすでに、残り僅かとなりました。霧から飛び出してきた《オーク》三体を瞬く間に返り討ちにしたレイナ様は、ここに来るまでと同じように、戦闘が終わった後、リリと一緒に魔石やドロップアイテムを回収しています。
「ごめんなさい、荷物重いでしょう? 少し私も持ちますよ」
そう言って何度私のバックパックから魔石を取り出しては自分の腰に巻きつけてあるポーチに仕舞い込んでいるのでしょう。初めてそう言ってきたときは信用されていないからと思っていました。リリはスリを働いた犯罪者、信用されるはずがないのは解りきったことです。
ですが、そう言うレイナ様の目には、一切非難の色は無かったのです。純粋に私を気遣って申し出ているのが解ってしまいます。人々の醜悪な部分を何度も目の当たりにしてきたリリは解ってしまいます。
移動する途中も、スリの一件なんて何も無かったように話しかけてきます。リリのサポーターとしての実力が良いとか、私も早く中層に行きたいとか、そんな他愛無いことをつらつらと語りかけてきます。
一つ階層を降りるごとにリリの心がどんどん重くなって、ちくりと刺す痛みが増していきます。五階層に降りたころには怪物祭当日に思いを馳せる気力すら失いました。十階層に降りたときに自分が働いた悪事に悔いすら感じ始めてきました。
そして、ついに十三階層へ下る階段が目
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