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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第六話
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の速さと大差ない。僅かに高まる緊張を胸にどんどん近づく。少女は隣から近づく自分に気づいていない。チャンスだ。

 そして、どんとわざと体をぶつけた。

(ここ!)

 小柄な体型を生かして腕を閃かせ、少女の懐から財布を抜き取った。抜いた腕をすばやく自分の服の内に忍ばせた。文句のつけようの無い成功だ。

「ご、ごめんなさい」

 この成功は当日のポテンシャルに良い影響を与えることだろう。思わずもれる笑みを頭を下げることで隠し、少女らしく律儀に謝った。もちろん謝意は全く無い。何せ相手は見限るのに困らない冒険者だ。ざまぁ見ろとすら思える。
 打って変わってその少女は「おっと」と声を零し、ぶつかったリリルカの姿を見ると、安心させるような笑みを浮かべて「大丈夫だ……ですよ」と返した。

 なぜ言い直したのか解らないが、リリルカは気にも留めず、もう一度ごめんなさいと謝ってからその場を去った。人ごみに紛れて再び路地裏に戻ると、自分の服の内に隠した少女の財布を取り出す。

 どれどれ、いくらあるのでしょう。ふぅん、3000ヴァリスですか。駆け出しとしても少し少ない金額ですが、まあ良いでしょう。

 少しの金も積めば大金になる。ありがたく頂戴し、いざ自分の財布にしまおうとした、その時。

「……あれ?」

 無い。懐の内の左ポケットにあるはずの、自分の財布の重みが無い。
 さっと背筋と頭の中に寒気が過ぎった。慌てて服のあらゆる場所をぱんぱんと叩いて確認しても、触り慣れた財布の存在はすっかり消え失せていた。

 嘘っ!? あの財布にはそれなりの金額が入ってたのに、まさか落としちゃった!? リリの大バカ!!

 落としたのだとすると、恐らく路地裏を散策していたときだろう。幸い路地裏の全体像は頭に叩き込んだばかりだ。自分が辿った道をなぞれば見つかるはずだ。
 すぐに拾わなければと踵を返したとき、心臓が止まるかと思った。

「ひーふーみー、結構あるね……ありますね」

 路地裏とメインストリートの境界に、先ほどの少女が立っていた。しかも、その片手に持っているのは自分が見慣れた財布。
 
 ま、まさか、リリの財布をスった!?

 ありえない光景を目の当たりに愕然とするリリルカに、少女はその端整な顔に可憐な笑みを浮かべて言った。

「この財布、落としましたよ」

 嘘つけ! スったの間違いでしょうが!

 自分のことを棚に上げて内心で激怒するリリルカだが、平静を装って安堵の表情を見せる。

「ありがとうございます」

 少女が差し出す財布を受け取りすぐさま中身を確認する。大丈夫、一銭も盗られてはいなかった。
 そのまま何気なく帰ろうとしたところ、再び心臓に氷の刃が突き立てられた。

「それじゃ
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