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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
第五話
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がこの場に居合わせたらさぞ驚いたことだろう。表情変化に乏しいがゆえに人形のようだと言われるアイズが困惑しきった色を浮かべているのだ。それも、見知らぬ駆け出し冒険者に。
 そのことに自覚がないアイズなのだが、涙の引いた双眸を再び潤わせ熱っぽく見える少年が差し伸べる手に反応せず、ますます心配になった彼女は直接引き起こそうとした、その時だ。

「だっ──」
「だ?」

 アイズに首を傾げる隙を与えず、少年は一級冒険者も括目する速度で跳ね起きると同時に、

「だああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 脱兎の如く、アイズから全速力で逃げ去った。ぽかんと目を見開いて立ち尽くすアイズは、背後の通路奥から逃げ去った少年の奇声が木霊するのを呆然と聞き、次いで副次的に置いていかれた少年の仲間と思しき少女に顔を向けた。
 奇遇なことに、その少女もアイズに顔を向けたところだった。さすがにその少女は体勢を直しており、自然な佇まいで苦笑いを浮かべた。

「忙しい子だなぁ……」

 ぱっと見で十五歳にも満たない容姿をした少女の口調は、どこか熟練された大人が醸し出す包容力を持っていたが、未だ呆然から抜け出せていないアイズはそのことに気づかなかった。

「……っ、……っっ、……くくっ!」

 後ろを振り返れば、震えながら腹を抱える同じファミリアの団員ベートが、必死に笑いを堪えていた。狼人(ウェアウルフ)の象徴の狼の荒々しい耳をへらへらさせて、呼吸を乱しながらなお笑う。
 さしものアイズも顔に熱が帯びるのを感じ、そのことから目を背けるように、駆け出しの少女に声を掛けた。

「迷惑掛けました」
「いやいや、助けてもらえて良かったよ。危うく死ぬところだった」

 足元に転がっている肉片は駆け出し冒険者たちにとって中々ショッキングなものなのだが、不思議なことに目の前の少女はまるで気にした風もなく、死に直面した直後にも関わらず朗らかに笑って返した。
 どことなく不思議な雰囲気を纏う少女に僅かな関心が芽生えたアイズだったが、口を動かす前に笑い転げていたベートが声を挟んだ。

「さっきも言ったろうが、アイズ。雑魚に構うんじゃねぇ」

 第一級冒険者で典型的な、いや、過度な実力主義者であるベートは格下の下級冒険者のことを雑魚と言うのを憚らない。それは彼なりの考えがあっての発言なのだが、元の気性が荒いせいか言葉遣いも荒く、結果罵倒に等しいものになってしまっている。某ハイエルフ副団長曰く「誤解されずにはいられない男」なのだ。

 だから彼の言葉を聴いたほとんどの下級冒険者は身の程を忘れて怒りを露に食って掛かろうとする素振りを見せるのだが、その少女はまたもどこ吹く風という体でベートの発言に対して反応を示さなかった
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