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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。
閑話 第一話
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】は、発現した当初の姿のまま筋肉が衰えることは無くなり、またランクアップしたときに加算される隠しパラメータは前のレベルで培ったステイタスを100%反映させるというものだったため、外見的に老いるどころかどこまでも成長していった。だからそのときになるまで私は気づけなかった。

「セレーネ様……」

 お世辞抜きで外見年齢は二十代の─実際の肉体年齢は四十代だけど彼女の若々しさが幸いした─クレアはベッドに横たえながら、弱弱しい声音で私を呼んだ。
 瑞々しく柔らかい手を握ってやると、眠たそうに目を伏せるクレアの口元に仄かな笑みが浮かぶ。その手には神の恩恵(ファルナ)が宿っているため鉄塊の一つや二つを紙屑のように握りつぶすことができるくらいの力があるはずなのに、私の手を握り返すその力はただ触れているだけのように弱弱しかった。
 
 いつも通りダンジョンから帰ってきたクレアが突如棒のように倒れてしまい、もう三日も経った。そのうち一回も彼女はベッドから外に出ることは無かった。いや、出ることができないほど衰弱してしまったのだ。筋肉の衰弱を止めても、肉体と脳の衰弱を止めることができなかったのだ。
 
「そんなに……悲しそうな顔、しないで……ください……」

 掠れる声で呼びかけるクレアが私の頬に手を添えて微笑む。最初は誰からもが門前払いをされて見て見ぬふりをされていた少女が、今や生ける伝説とまで呼ばれるほど成長した。貫禄すら感じられるその佇まいはもう、何も無かった。
 ただ死ぬことへの恐怖と、私と離れ離れになることへの惜しみ。それが今の彼女を突き動かす最後の原動力となっていた。

「悲しい顔なんかしてないよ。だってクレアがそばにいてくれてるじゃないか」

 いつもの態度に努めて返して両手を包み込むと、クレアが嬉しそうに唇の端を持ち上げた。それからゆっくり顔を天井に向けると、深く目を瞑って、搾り出すように言った。彼女もまた、いつも通りにしゃべろうとしたのだろう、苦しさを紛らわすように笑った。

「セレーネ様、私、あなたと出会えて、本当に良かった……。私の、母は、二人です、ね……。幸せです……」
「当たり前だよ。これからもずっと幸せさ」

 勝手に零れ落ちてくる涙を無視して彼女の言葉に心から返す。クレアは私の口癖「困ったなぁ」と真似て呟いた。彼女がおどけてみせるときの癖だ。

「また、会い……ましょ……う……」

 最後にふぅと長い息がクレアの口から零れた。
 次は何を言うんだい? キミはいつも二言くらい余計な冗談を言う。だから、だから……。

 続きを、言ってくれ……?

 握る細い両手がするりと、私の手から滑り落ちた。何の造作も無く布団の上に落ちた両腕には何の力みは感じられない。吐息を刻むはずの口は笑顔のまま不動を貫き
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