彼女は天を望まず
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とにすら気付かずに。彼のように、多くを救える結果を求めて話さないモノだけは、教えないことにこそ意味がある。
――彼は……私達と同じでは無い。その差異を問い詰める事は、したらダメ。
個人の嫌悪如何に関わらず、彼が自分のことを話さない理由はもう一つあると予測を立てても居る。
不和を齎さないように救う結果を求めているのだ。近しいモノに格差を与えない為に、そして自己矛盾の弾劾を封殺して否定させない為に口を噤むことが、彼の選んだ正解のカタチ。
“人が人として作る平穏な世界を”……それは秋斗が願って止まないモノ。
“ナニカ”が優先順位を付けた“誰か”がエコヒイキで幸せになる世界など、彼は求めていないのだ。皆等しく命を賭けて生き抜いているから、その誇りを侮辱することを彼は許さない。
血筋のみで上がって行った人間や、権力のみで甘い蜜を吸っていた才無き輩が理不尽を敷き、自己の欲望と保身を優先し、そうして世は腐って行った。それを変えたいと望む秋斗は、自分がそれらと同じであることを、否、同じでありながら実力主義を謳う矛盾した大嘘つきであることを唾棄している。
雛里はここに来て、彼の根幹にある悩みを看破した。
自分を憎むのはそのせいだ。自分の命を使い捨てるのはそのせいだ。自分をガラクタのように扱い、『乱世に振るわれる剣でいい』と望むのは、そのせいなのだ、と。
――“天の御使い”……耳に聞こえはいいけど、それはどれだけ……下らない存在なんだろう。
才を求めるこの場所で、才ある者達の身を削るような努力を知っているから、雛里は思う。届かなくとも必ず高みを目指す、と彼に導かれて決めたから余計に。
“天の御使い”は、誰もが自分の描く平穏をこの大陸に敷きたいのに、与えられたナニカで“自分が信じるモノ以外”の意味を無に帰す存在ではなかろうか。
――結果だけを求める不毛な弁舌をするのなら、ただ平和を齎したいのなら、劉備さんのように手を繋げと喚けばいい。あの人はそれが出来たはず。でも人の矜持と想いを大切にするから……
自分勝手な、人では届かぬ天の理由で誰かの未来を奪うなど、傲慢に感じるモノもいるのだ。彼が憎み、華琳が嫌う存在はソレに他ならない。
息を呑んだ。廻りの状況を置き去りにして思考に潜る中、泣きそうになった。
――だから、彼は壊れた。その自己矛盾に、大嘘つきの罪過に潰されて。
逃げることも出来なかった。自分が決めた天命を信じて、劉備さんを王にしようと決めたから。
気付かなければ良かったのに彼は気付いてしまったのだ。華琳と同じく人が生きたいと願うこの世界が好きだから、この大陸で異端な自分を許せなかった。
雛里は彼の異端知識は特別なモノだと理解している。武力よりも彼女はそちらを異常だとし
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