彼女は天を望まず
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間違いなく異端過ぎたのだ。
――今は、そっちはいい。
そちらの思考を切って捨てた。他に回すのは、彼の故郷のこと。
雛里は自分が孤児となった経験から、彼が家族を失ったことが一番しっくりくると考える。もう帰れない家を思うと、確かに寂しい。自分もそれが欲しかったのだから。安息と安心できる居場所を、嘗ては師と親友に求めていたのだから。
――だって白蓮さんの所でも、劉備軍に居た時も、華琳様の所で暮らしている今この時も、秋斗さんは帰る場所を欲しがってる。
空で迷う鳥のようにか、はたまた、迷子になった子供のようにか。彼の心が休まるのは誰かと共に平穏に暮らしているその時が大きく、失ったからこそその大切さを知り、癒されていたのではなかろうか。
ただ、雛里から見るに、いつでも彼はこの世界に一人ぼっちのような気がしていた。繋ぐ絆は数あれど、何処にも居場所が……いや、帰る場所が無いようなそんな感覚。
――違う。一つだけある。彼が居場所を確立出来るモノが……誰彼等しく、その命を証明出来る居場所が。
道化師は舞台上にしか存在しない。ふって湧いて出たように存在しているに等しく思える秋斗の事を道化師とは言い得て妙か、この乱世の為に生まれ育った性質としか、雛里には感じられなかった。
ふらふらと根無し草の旅人で居ればそうはならなかったのかもしれない。しかれども、彼の場合は否。
目の前で死に行く人を放っておけるわけが無く、理不尽に巻き込まれないはずも無い。雛里が引き込んだから劉備軍に居ただけ。臆病ながらも人を助けたいと願っていたのだから、いつかは乱世に立つことになっただろう。
長く彼を見てきたから雛里は……彼が乱世で戦わないという確率はゼロに等しいと、そう確信している。
――“もしも”、困窮の果てに賊徒に堕ちたモノ達と彼が出会ったなら、彼はそれを利用して世を変えようとする。
自分を賊に落としてでも、“知識と力があるから”救いたくなる。善悪の別なく今と先を見て、人の変化を是とする彼は、目の前で起こった願いと可能性を放置出来ない。
楽しそうな声で、渇きに満ちた瞳を浮かべて、『もっと悪いことしようぜ』と言う彼の姿が思い浮かんだ。
憎しみは向けられて当然だと言い放って抗い足掻くのは、そんなもしもでも変わらない。
深く深く、思考は潜り行く。内に飼う智のケモノの性か……否、此れは育つ恋心ゆえの欲。
――もっと……もっと彼のことを知らないと。
彼のことを知らなさ過ぎると今更気付く。
ただ、話さないのだから踏み込むことはしたくない。そも、彼は自分のことを話そうせず、いつもその知識と過去ははぐらかし誤魔化してきた。
教えないことを信頼がないと誰かが言う。それは傲慢な、知りたいと願う者の押しつけであるこ
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